#084:絶句な(あるいは、素立ち、巣立ち、アロマ)
「……申し遅れましたがー、『平常心乖離率』が100%を超えたまま15秒が経過しますとー、……座席ごとの逆バンジーになりまっす!!」
このタイミングで言われても! と思うが、既に対局者は5点式シートベルトに体を拘束されていたわけで。そしてよく見ると、対局シートからは幅広のゴムベルトのようなものが上空に向かって伸びていた。うん、これ逆バンジーだね。
「決勝第一戦っ……!! スタートぉぅっ!!」
そして次の瞬間、唐突に対局は始まった。
「……」
「……」
流石に初手からは動きづらいか。丸男&マルオは、お互いの出方を伺ってか、沈黙のまま。重苦しい空気が場に流れる。と、
「ぼ、僕はおにぎりの具が、だ、大好きなんだな!」
丸男からかましに行ったー、が相変わらずの意味不明。具が好きなら具だけ食っとけ! と思わず突っ込みを入れるところだが、溜王の場ではあらゆる突っ込みが無効化される不思議なフィールドなので、僕は黙っておくことにする。
「あ、ぼ、僕もです……き、気が合いますね……」
対する向こうのマルオは普通に返したー!! で、DEPで、会話が成り立つなんて。
「平常心乖離率、『先手:23%、後手:6%』」
おっとぉ、丸男がマルオの素朴な返しに面食らったか? ちょっと局面をリードされたぞ。でもまだまだ、次を撃ってください!
「んかしゅぅぅぅぅっ、なっつどすえええぇぇぇぇぇぇ!!」
いやそれじゃなく。性懲りもなく例のネタで挑む丸男だが、学習能力はないのか?
「……あ、か、変わった名前ですね。京都の方、なんで、しょうか……」
わかった、マルオの戦術が! DEPにいちいちまともに応答することで完全に押さえ込んでいる! のみならず、撃った本人をも揺さぶるリアクションだ。これはきつい。丸男の顔が無表情になっているよ。しかも恐ろしいことに本人は計算でやってない。素だ。素でやってのけるんだ、天然ものだから!
「平常心乖離率、『先手:74%、後手:8%』」
押し込まれている……!! 何か策はないのか?
「……んんんんんっ!!我に天啓よ!」
追い詰めらた丸男が天を仰ぎ、そう叫ぶ。そして、
「ケーチューラー、マーチューラー」
何やら意味不明の呪文のようなものを唱え始めた。だ、大丈夫か?(頭)
「……ハヌバヌーイっ、シラマンチャス!!」
そう言い放ち、背筋をピンと伸ばしてキメ顔を作る。わっかんねー、丸男のだけはほんとにわっかんねー。だが、逆にこの意味不明さこそが、相手を平常から引きずり落とすのでは?
「……あ、ハヌ……ま、マンチャスっ!!」
甘かった。マルオは丸男の意味不明なフレーズを精一杯真似してきた。無敵じゃないか。
「……」
丸男の顔が完全に固まってしまったー。
<先手:132%、後手:11%>
非情な評点が告げられるが、もはやなすすべがないことは丸男を始め、僕らにも、観ている観衆にも伝わってきた。
「5秒前、4、3、2、……」
カウントが終わる。
「すまねえ、何の役にも……」
珍しく殊勝に丸男が呟くが、次の瞬間!
「お、オバヒぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
その体は座っていた椅子ごと、上空へと打ち上げられた。うわー高い。30mは上がったんじゃないの? 僕はその恐ろしい光景を目の当たりにし、絶句するしかない。