#083:緊迫な(あるいは、トゥーカンブラザーズ)
「6組優勝決定戦んっ!! 持ち時間は5分切れ負けっ!! 両者準備はよいですか?」
電飾実況ダイバルちゃんがリング中央に上がり、丸男ともうひとりのマルオがクレーンの先に設置された「対局シート」上で、開始の合図を待つ。僕とアオナギはリング脇のパイプ椅子に腰掛け、その背後にはセコンドのジョリーさんが椅子の背もたれを両手で掴み、シブい顔で対局の様子を伺う構えだ。
「……あわわ、どうしましょうかっ、ききき緊張がとま、止まらないいいいいいい」
向こうのマルオは全く落ち着きのない素振りで、自らのチームメイトが待機している方をちらちら見ては、そんな気弱な言葉を吐いている。これは演技か? それとも……? 今の時点では分からないものの、決勝まで勝ち上がってきたんだ。どちらだとしても全く油断はできない。
「マルオ、その常に怯えて緊張でガチガチのメンタルが、お前にとっての『平常』だ。だから遠慮なくそのまま緊張してろ。何をぶつけてこられようとな」
向こうのチームの他の二人をリング越しにさっと観察してみるが、何か二人、雰囲気も外見も似ている……初老の男たちだ。言葉を発した方は真っ白くなった頭を坊主刈りにした、日に焼けて皺の刻まれた顔。そして逞しい体つき。作業着のようなカーキ色のつなぎを身につけている。
もう一人はこちらも年の割にはがっちりとした筋肉質の体を紺の作務衣が包んでいて、顔はどちらかというと白く、その髪は同じく坊主に刈り込んでいるものの、黒々としていた。何というか2Pカラーというか。双子、というほどでは無いが似ている。兄弟?まあ、そこは今はどうでもいいか。まずは目の前の対局の事だ。よし、
「トウドウさん! 平常心です!」
と、心にもなく、意味もなく、どうでもいいような声援を送ってしまう僕。しかしリング上の丸男はやけに落ち着いた佇まいで、軽く手を上げそれに応えてくれた。
これ、期待していいのでは? 改めてその姿を見やると、頭には包帯(それが何故か片目も覆っている。儚げな雰囲気を足したとか言ってたけど、意味わからない)、本当に相撲を取りそうな巨体は、畳2畳分のビロード布地を使って作り上げられた深い碧色のメイド服に包まれている。そして顔は白塗り、目の周りだけ黒に塗られたアクセント。
本当にわけのわからない出で立ちだけど、まあ、提案したのは半分は僕なんで何も言えない。セーラー服の戦闘服よりはましだったと思うだけだ。
「それでは対局を開始しますっ!!」
ダイバルちゃんが高々と手を上げるとほぼ同時に、どわああっというような歓声が巻き起こる。おおお、今日一の盛り上がりと申しましょうか、ついに! 対局が始まる……!!