#076:真摯な(あるいは、カミンガー#ゼロワン)
「がああああぁあぁあっ……左括約筋が攣ってる……右も限界に近い……」
忠村寺の苦悶の声が響き渡る。括約筋に右左があるのかは謎だが、本人が言ってるのであるんでしょう。それよりも未だペダルを漕ぐ脚を止めようとしていない、その体力と精神力に感服だ。
「後はダウンレベルでゆっくり回しとけ。よくやった」
その隣では、桂馬が前傾姿勢に移行し、速度を上げそうな気配……向こうが先手、で、僕らを潰しに来る!
「ちょ、休憩入れさせてくんねえ? この漕ぎ続けるの、かなりきついってぇの」
アオナギの顔色が青白い。いや、もともと白くは塗られているんだけど、そこからはみ出た輪郭の部分とか、首の所とかが。いつ脚が止まってもおかしくない状態に見える。やばいよー。
逆側の丸男を見やると、こちらも青黒い何か変な軟体動物のような巨大な舌をその口からだらりと垂れ下げ、目の焦点は合ってない。かろうじてペダルは回ってはいるけれど。
「……」
僕らの現在の規定速度は、初期から1km上がってしまって「13km」。僕一人で、ならまだ何とかいけそうな速度だが、非情にも「3人の平均時速が13km」にならないと着手権は得られない。仮に他の二人が瀕死の体でゆっくり回しているのが時速3kmずつだとする。そうすると僕は「時速33km」で漕がなくちゃあいけないことになる。無理無理、僕の脚も攣りそうだってのに。
「レーゼ上げろ! 俺がケリをつける……」
僕がそう逡巡してる間に、桂馬の腹は決まったようだ。向こうの着手が来る。そして後手を引いたら30秒以内に着手し返さないと、電撃をノーガードで食らってしまうことになる。そしたらもう終わりだ。下手したらその衝撃で脚が止まってジエンドだ。
「おおおおおおおおおおっ!!」
そして、ここに来てレーゼさんが気合いの咆哮を上げる。相手チームの規定速度は「17km」。大ダメージを受けている忠村寺が3kmでしか回せないと仮定すると、桂馬・レーゼさんで48km。ひとり頭24kmで回さないといけないことになるが、これも結構な速度じゃないの? しかし、
「チーム29っ! 物凄いスパートです! 規定速度まであと2km!!」
リアちゃんの驚愕の声。桂馬とレーゼさんはこれまで見せたことないほどの踏み込みで回転速をマックスまで持っていっている。15……16……17kmと、ディスプレイを見ている間にどんどんと速度が上がっていくよ! 「着手可能」のアイコンが画面に表示される。まずい。非常にまずい。
「行くぞっ!!」
クールな桂馬が見せる、忠村寺の熱血が乗り移ったかのような渾身の気合い。後はもう、そのDEPが忠村寺級であることを祈るしか……っ!! ただそれでも、こちらが着手権を得ない限り、ぼこぼこのサンドバック状態でジリ貧は必至。何か……何か打開策は無いの?
「俺は……」
そうこうする内に桂馬が「着手」ボタンを押したようだ。そしてその口から、渾身のDEPが放たれるっ……!!
「俺は、達磨のことが好きだーっ!! 愛、しているー!!」
#001:唐突な、桂馬のカミングアウトに場内が揺れる。僕の頭もぐらぐら揺さぶられるかのようだ。これどう出んの!? でも審査者ってこういうの好きな人たちだよね!? やばい30,000超えるかも。どうする!? 万事休す。