#073:矮小な(あるいは、ハイパーメンタリスト達の午後)
「アオナギさんトウドウさんっ!! ここっ!! ここ一番で漕いでください!!」
がんばってくれぇぇぇぇ、規定速度に、規定速度に達しさえすればー!!
「了解だ、フオオオオオォォォ!!」
「合点っ!フオオオオオォォォ!!」
僕の号令に二人が即座に反応してくれたことは嬉しいけど、何故に同じ雄叫び(?)。しかしその効果か、僕らチームの速度表示はみるみると上昇していき、11kmに到達!あと少し!
「いっけえええええええええええっ!!」
僕も気合いの雄叫びを上げ、尻がサドルから浮かないように細心の注意を払いながら、両脚に力を込める。よし、12km超えた!! と思った、その瞬間だった。
「……ん、かしゅうううううううううっ、なっつだっちゃ!」
え? 右を見やると、丸男がしてやったりの会心の笑み。え? え? 固まる僕。
「先手後手、出揃いましたっ!! 評価は……」
リアちゃんが後ろのディスプレイを示して採点を待つが、ちょ、ちょっと待って今の無し無ーし!! 必死で訴えようとしてももう遅かった。非情の結果がディスプレイに表示される。
<先手:92pt×後手:81pt>
う、うん。負け……たけど、この点差……。
「後手に11ボルティックがブースト……!!」
気の抜けたような声でリアちゃんが告げる。たっぷり10秒ほど、運営側の逡巡だろうか、妙な間が開いてから、臀部にぴりりと来る微弱な電気ショックが観測された。低周波治療器か。尻の血行が良くなりそう。
「……」
「……」
両チーム、そして実況、観客すべてに嫌な沈黙が降り注いだ。どうすんねんこれぇ! 当の二人、忠村寺と丸男は、お互いにやるな? みたいな顔つきで視線をかわし合っている。もういいよ、もういい。
「チーム29は、持ち時間5秒を使い切りましたので、着手可能速度を『16km』に上げさせてもらいます!! チーム19は4秒でしたので、ぎりぎり『12km』!ステイです」
実況リアちゃんが、忘れかけていた「着手時間5秒かかる毎に、規定速度1km上がる」ルールを思い出させてくれる。そうだ、結果オーライだ。大したダメージを受けずに、相手の負荷を上げさせてやったぞ!
「5秒かかってたか……悪いね、ヘボパイロットで」
そう言って苦笑する忠村寺に、桂馬は冷ややかな目を向け、こう告げた。
「頼むから、勝手な着手はやめろ」
「そうだ。お前は黙って漕いでるんだ」
追い打ちをかけるようにレーゼさんもきつい一言を浴びせるが、忠村寺はまったく応えていないようだ。
「おおう、エンジンだけは一流のところを見せてやるぜ!!」
そう吠えるやいなや、凄まじい加速。一気に「16km」を超えてきた!
「……」
しかし着手は無しと。このぉっ! 絶対に今度はこっちから攻めてやる! 丸男は頼むから、勝手な着手はやめてね!