#064:慧眼な(あるいは、バーナード・オブ・遷都)
「ケイン~ケイン~ケイン~ケイン、ケインケインケインっ!ケインケインケインっ!」
先手、堀之内。名前+歌ネタでぶっ込んだところから戦いは始まった。
「室戸……ミサキやぁっちゅうねんっ」
対する僕はというと、本日何度目になるかの名前ネタ、を苦し紛れの変化球で放つぐらいしか対応不能だ。追いつめられると西方の言語が飛び出してしまう体質は、アオナギ・丸男から伝播されてきてるようだが、すなわちそれだけ僕は窮地に立たされている。初手の採点が集計され、目の前のディスプレイに表示される。
<先手:9,089pt×後手:8,877pt>
!! ……やはりというか、もう名前のインパクトだけじゃ点が伸びない。というか、審査者たちも採点が辛くなってきてないか?
「『212ボルティック』が後手にブースト。さっさと耐ショック姿勢をとれっていってんのよ!!」
四戦目にして初の電流。それに備える姿勢って、いや教わってないけど!
「ぱぴろぉぉぉぉまっ!!」
ショックのレベルとしては何とか尻が浮くのを耐えられるものではあったものの、はじめての経験に意図せぬ叫び声が勝手に僕の口から漏れ出てしまうわけで。痛さもさることながら、その屈辱感もハンパないな!
「先手っ!! 二手目を着手しろっつってんでしょぉっ!?」
僕のリアクションを待つことも無く、紫実況少女、永佐久ちゃんは次を煽る。金髪を無意味になでつけると、堀之内は体を揺らしてリズムを取り始めた。来るぞ……!!
「ま~る、散髪、しくじるー」
そして自らのヘアバンドを上に引き上げると、そこには自己バリカンでツーブロックにしようとしたけど、刈り方しくじって虎刈りになりました風の、がたがたな刈り跡が現れたわけで。いやこれも仕込みだろ。そもそも額の上は刈り上げねえし。しかし体を張ったこのネタはやばい。持ってかれるぅぅぅぅ。何か、何か僕に天啓よ!
「後手っ、応対しろっての! 無言はその時点で負けとみなすからねっ!!」
非情の永佐久ちゃんの言葉に、しかし、何も思い浮かばんです。固まってしまう僕。
「残り時間5秒っ!!」
やばいやばいやばい。何か……何か……。
「……ま~る、山岳、救助け~ん、バウっ」
出た! 相手に乗っかっての重ね技だっ!! ……そんな大したものでもないか。僕は精一杯のしゃくれた犬顔で世間の判断を仰ぐ。こらぁ、やっちまったでしょうか。一瞬後、
「は、はぅぅぅぅぅっ、かわいいいいいぃぃぃぃっ」
永佐久ちゃんは口に両手を当て、切なげな嬌声を上げていた。え、これありなの?そして教科書通りにデレましたよね。何だろね、もうこれ。そして評価結果がディスプレイに表示される。
<先手:23,597pt×後手:34,003pt>
意味不明の評点だが、勝ちは勝ちと、僕はもうそのように受け取ることにしている。電撃を食らわないことは何より素晴らしいことだ。よぉし、10,000ボルティックを先手にブーストやぁっちゅうねんっ。