#063:疑惑な(あるいは、いま思えば、これが出会い)
「ぴょこんっペダンっピグマリオ~ン!」
午後1時。準決対局ブースはD。現れたのはやたらハイテンションで、常に笑顔だが目は猛禽類のそれ、といった感じの超個性人だった。
「ユー、メイド、ミー、ハッピー。ヒャハぁぁぁ!!」
ケイン堀之内。ダメ界隈ではかなりの有名人らしい。彫りの深い日仏ハーフで、いつかの丸男が着ていた派手な蛍光黄色のビブスのような、というか本物のビブス(「11」と印字されている)と蛍光ピンクのランパンを均整のとれた筋肉質の体に直に身に付けて、頭にはラメっぽく光るヘアバンドらしきものでそのウェーブがかった金髪を立ち上げている。なんだろう、とても残念だ。残念な感じの男前だ。
「いいか少年、まともに撃ち合おうと考えるな。お前さんの能力を信じてねえわけじゃあねえが、万一のある相手だ。俺もC1で一度戦ったことがあるが、野郎独自の世界にぐいぐい引き込んで来やがる。距離を取って間合いを計れ。いいな」
アオナギもその堀之内を警戒しているのか、珍しくまともなアドバイスをしてくれるものの、距離とか間合いとかは、精神的なところのものってことですよね? どうせいと?
「ちょっと聞いてる? 準々決勝第一試合、始めるんだからねっ」
今回の実況少女のイメージカラーは紫。今までと同様に美少女感はかなり高い。目が大きくかわいらしい顔立ちだが、それが不機嫌さで常に覆われている。発言や行動すべてに嫌悪感と好意とがないまぜになったような……まあ、全方向に向けられたツンといった感じかな。こちらも非常に残念だ。
「オーウイっ、マドマゼィル、ランダムバトル、お題はなんぜぃる?」
不自然なほど表情を大げさに作る堀之内。実況少女ににこやかに問いかけるが、韻を踏んでるんだか無理やりなのかわからない妙な抑揚とリズム……もうその「世界」が始まっているとでも言うのか?というか、もう「ランダム」を告げるベルも鳴らなくなり、開き直ったかのように常に無茶なルールが付け加えられるようになってるよ。元老院め……!
「『ランダムバトル』は『ワンフレーズ×ブレイズ』。一手5秒以内の凝縮されたDEPでの殴り合いよ。べっ別にあんたのためにこのルールにしたわけじゃないんだからねっ」
様式美化されたようなツンを繰り出す紫実況少女(永佐久なんだからねっ、だそう)だが、いやいやいやいや!完全に堀之内寄りのルールじゃないか! 陣営を見やる。渋い顔。うん、まずい。
「先手、ナンバー49っ!! もたもたしてんじゃないわよっ!」
そうこうしてる内に、永佐久ちゃんが対局開始を告げ、またしてもさくりとやばい状況に放り込まれたわけで。今回、か、勝てる気がしない……。