#061:剣呑な(あるいは、再会する)
第三戦までが滞りなく終了し、6組は準々決勝に臨む8組が出揃ったところで、昼休憩となった。時刻は正午少し前。グラウンドから観客席の方へと上がった僕らは、適当な空席を見つけて腰を落ち着けるのであった。
「適当に取ってぇぇん。まずは三連勝おめでとうだわねぇん」
ジョリーさんが差し出したコンビニ袋には、おにぎりやらサンドウィッチ、飲み物がぎっしり詰まっていた。数多くの死闘を戦い抜いてきたせいか、おなかはもう限界レベルに減っている。ありがたくいただくことにした。
「『ランダムバトル』とやらが初耳だったが、ま、少年にとっちゃあ大して影響なかったか」
アオナギがペットボトルのお茶をぐいと飲みながら言う。
「しっかしよぅ、元老院のやつらだろ? 急に新しいルールをぶっこんできたりよぅ。何か最近のやり方がよくわからなくなってきてんよなあ」
丸男が両手におにぎりを携え、交互にぱくつきながら解せない様子でつぶやくが、その食べ方、リアルでは初めてみたよ。
しかし、元老院……この会場にどうやら5人来ているらしいが、その姿はまだ僕らには見せていない。VIP席とかがあるのかな? ともあれ、その元老院の面々が、この溜王戦を含む数々の倚戦を取り仕切っているそうだ。あまりアオナギや丸男にいい印象は持たれてないようだが、評価の10分の1を占めるポイントを有するんだ。無視はできないのだろう、二人とも元老院のことを話す時は少し複雑そうな表情を浮かべる。
ま、僕としては今やれる事をやるしかない。ルールが定められるのなら、それに対応していくのみだ。僕はもう、何というか、やるならやったる的テンションにギアを上げているわけで。決してダメ=モテにつながるだろう的下心ではないわけで。と、
「少年……来てくれて礼を言う」
背後より突然声を掛けられた。このパターン、いい時も悪い時もあるが、今回は……?
「それに、その戦いぶりには正直、驚いた。新手、新手の連発で、こっちの目が覚まされるような感じを何回も味わわせてもらった」
カワミナミさんだった。しかしその風貌はこの間あった時と大分変わっている。まず髪の色。濃い茶系だったと記憶しているけど、今日は何と輝く銀髪だ。ワイルドなショートはワックスだろうか、うねりが強調されている。
そして服装。臙脂色? かそれより赤に近づいたような微妙な風合いのスーツの袖をまくりあげ、下もひざ下くらいまでの短い丈だ。黒いサテン地らしきタートルネックをその下に身につけ、足元はえらい急角度の銀ラメのヒール。これらをトータルで着こなせるのは、この人くらいなものだろう。僕は思わず目を奪われてしまう。
「きっさまああああああっ何しに来やがったぁぁぁあ!!」
「くぬ野郎っ!! うちの室戸に近づくねえっ!! あっち行けぇ、しっしっ」
アオナギと丸男は揃って、この嫌悪感だ。何でそこまで毛嫌いするの。
「アオナギ、トウドウ、ジョリーも、久しいな」
しかしそれらを全く意に介せず、カワミナミさんは親しげな眼差しを3人に向けてくる。ま、この際、話し合ってみたらどうです? 歯を剥き出し、獣のように威嚇を始めるアオナギと丸男にそう言ってみようとするも、何か本能的に危険な感じもするので言い出せずにいる僕がいる。