#059:漫然な(あるいは、語るに落ちる、語るシス)
「オウフ、これはしかし非常にまずいことになったとワタクシ思案に沈むのでありまして……難解であるっ難解である」
バンダナの上からヘッドギアを装着した青白い顔のニキビ面(根津といいますドポォだそうだ)がわざとらしく腕組みをして顎に手をやっている。脳内でやってくれとは思うが、何か対局の突破口になる情報を出すかも知れない。僕はその思案しているという内容をぽろりと漏らさないか、自分のヘッドギアの位置を直すふりをしながら聞き耳を立ててみる。
「まさか……お相手がこんな可憐な美少女とは。罵倒などとても出来んではござらんかっ」
……なるほど、中身が何であるかはこのメイド服とメイクからではわからんか。じゃあ……そっち方面で攻めていくことにしますかね。
「オーライ? 発射スタンバイっ!」
桜田ちゃんは、指を大きく広げた手を差し出し、対局開始の間合いを計っている。いくぞおおおおお……
「っっっレディィィっ、ゴアヘッッ!!」
発音はネイティブ寄りだが、内容は少しズレてる桜田ちゃんの渾身の合図で、ランダムバトル「罵倒×バトル」の幕は切って落とされた。
「そもそもですね、罵倒というものは相手をこっぴどく罵りたおすといったものでコポリウスwww いやいやそんな説明をしてる場合ではないことはワタクシきちんと承知しているわけでして、まあ萌えとしてのメイド服? に何らかの付加価値を持たせようとしているその姿勢ですか? スタイルですかに、ひどくまあありきたりな何かを感じずにはいられないわけでフォヌテカルロwww これ罵倒になってない。罵倒というかあなたへの論破といいますか、すなわちダメにおける萌えというものはですね、その結局はアヤ・ハツマに集約するとワタクシ考察するわけで、同時に萌えの大部分をアヤ・ハツマに傾倒しているワタクシとしましてはフォヌマロカリスww これじゃワタクシ、アヤ・ハツマのヲタ的な何かにしか見えないというか、いえね? ワタクシはそこらの凡百の『初摩フリーク』とかおっしゃる輩たちとは一線を画すといいますかね、アヤ・ハツマの魅力をですね、一歩引いた視点から俯瞰しているといいますか」
長えよ。根津がまくし立てるその罵倒というか、自分が言いたいだけのことの垂れ流しだろ的な内容を聞き流しつつ、しかしアヤさんのことをその小汚い声帯から小汚い音声として発するのはやはり見逃せないわけで。
「自分は……初摩アヤさんと裸の付き合いをしたことがある」
仙台の旅館の露天のことだ。だが嘘ではない。嘘発見器も作動はしないだろう? どうよ、ネズ公、そもそも貴様とは積み重ねたものが違う!
「は!! は、はだ……はだ……かど……ドプロコッカスっ!!」
よくわからん叫びを発し、根津は何を想像したのか白目を剥いて硬直した。
「平常心乖離率400%!! この時点を以ってナンバー19のKO勝ちとするっ!!」
桜田ちゃんが告げ、あっさりと勝負は幕を閉じた。しかしお互い罵倒でも何でも無かったね。僕は何というか、もやもや感を胃の辺りに感じながらも、よしよし3つ目とったどーと次に向けて素早く切り替えるのであった。この辺は最近身につけたダメに対しての僕なりの処世術。大分自分もこなれてきましたなぁ、フォヌロポリセスwww