#047:唖然な(あるいは、神宮アンダーグラウンド)
「着替えるのは後だ、少年。とりあえずエントリーはしとかねえとな」
アオナギは何事も無かったかのように、僕らを促す。うんまあ、そうですけど。何となく釈然としない妙な気分のまま、参加者と思われる人たちが静かに吸い込まれていく離れの建物に向かった。
「……エントリー票を確認します。コード画面を表示させてください」
入口は両開きの大きな扉が全開にされていて、その両脇に係員らしき黒スーツの男たちが控えている。
アオナギはスマホをさっといじくって、表示させた画面を突きつけると、すかさずそこに係員がバーコードリーダーのような機械をあてがった。
ピピッと言う音が鳴る……OKってことか? 係員は無言で中に入れという仕草をする。
「アタイはセコンドよぉん。ほらこれ」
僕の後ろでは、ジョリーさんも画面を差し出していた。セコンド……それも初耳だけどね。
「おおぅ、ついに会場入りかよぅ。やっぱ緊張すんなぁ」
丸男が武者震いのように体をわざとらしく揺らしてみせる。
僕たちは掲示された矢印に従って通路突き当たりを右へと曲がるのだった。
まったく、ここに来るまでに色々なことがあった。アオナギとキャンパスで出くわしてからたったの十日余りだったが、様々な出会いがあり、突拍子もないことが起こったりして、そしてそれに巻き込まれて振り回された。
「緊張ですか? ……自分は、高揚の方が強いですけど」
けど、その丸い背中に向けてそう言ってやる。いま、僕は自分の意思でここに立っている。地下へと降りる階段を一歩ずつ踏みしめながら、僕は戦う決意を新たにする。
「少年。こいつは運命だぜ。お前さんがここにいること。偶然偶然と思っていたが、どうやら俺もまた運命とやらに導かれているのかも知れねえ」
振り返りもせずそうアオナギが声を掛けてくる。言葉は大仰だけど、それはいつも通りの感じだ。よし、いくぞ!
「……!!」
そして階段を延々と降り続けて十分くらいか、薄暗い所からいきなり光差す巨大なスペースへと僕らはまろび出たわけで。
そこは何というか、球場のような所だった。いや、正しくないな、そこはまさに球場だった。もうひとつの神宮球場が……上空をコンクリートに固められた巨大な球場が、まばゆいナイター照明に照らされて、僕らの前に姿を現したのであった。
思わず口を開けたままで固まる僕。えーと、何これ。