#034:残虐な(あるいは、はじめてのオバヒ)
「あ、あ、ありえな、……あ、アヒィィィィィィっ!!」
驚愕の叫び声が、澱んだ早朝のファミレスの空気を震わせていく。為井戸の余裕ヅラが醜くひしゃげて崩れていた。それはそれで良かったことであるけど、これ機械の故障とか?
「い、い、一万オ、……お、オバヒィィィィィィっ!!」
一方、白目を剥いて同じようなリアクションの丸男。「オバヒィ」はなかなか出ない叫びだろ。
<何この点数!!!!!>
<ぶっこわれ!?運営どうなってんだ>
<タメイド『が』瞬殺wwwww>
<本戦でやったら人が死ぬる件>
チャットが怒涛の勢いで流れ消えていく。僕はと言えば、初めてのDEPを繰り出したことに軽い高揚感を覚えていたわけで。
何かすっきりした。ずっとあの失敗告白を心のどこかで引きずっていたけれど、こうして吐き出すことで、外と管のようなものがつながって、そこから体の中に溜まったガスみたいなのが抜けていく感じ……アオナギとかカワミナミさんが言っていたことが少し分かったような気がした。
「くっくっ、こいつは投了級だ。決まったな、フォーメーションデルタ」
フォーメーションもデルタも初出でしたけど。構わずアオナギはテーブルの上に体を乗り出すと、放心状態でまだ震えている為井戸の内ポケットから、十万が入っていると思われる封筒を抜き出した。
「今なら不具合とかで誤魔化せるかもなぁ。ま、どうとでもしてくれや。『溜王』本戦で当たったらお手柔らかになぁ」
「がっ……! かはっ……! こ、こんなものは故障だっ……認めんぞ……認めん……」
ショックで顔色が青を通り越して白に近い為井戸が絞り出すようにつぶやくが、もうアオナギは現ナマを扇のように広げて丸男やジョリーさんに見せつけており、聞いていない。しょうがない、僕が言うか。
「あの……為井戸さん。何か、すいませんでした。いらんことをしたみたいで……お金は返します」
言いつつ、リングやらバングルを外して渡そうと為井戸に近づいたが、
「え、えヒィィィィっ!! よ、寄るなバケモノぉぉぉぉ」
こうまで後ずさるかというくらい、後ろ飛び混じりでにじり下がる為井戸。慌ててタブレットやらを乱雑に掴むと、
「ちくしょぉぉぉぉ、本戦だ!本戦でぶっ殺すから首を洗って待っていろぉぉぉぉぅぅ」
テンプレと見まごうくらいの捨てゼリフを残し、店から走り出て行ってしまった。
「あ……」
何か悪いことしたかな。ま、お金貰えたし、良しとしようか。
「少年。気分はどうよ?」
万札扇であおぎつつ、にやりとした顔でアオナギが聞いてくる。アオナギ、さんは、この感覚を僕に伝えたかったのだろうか。この、閉塞感に少しだけ風穴を開けるような感覚を。だとしたら何か、少しだけ感謝したい気持ちになった。が、
「……前途ある新四段を心ごと叩き殺した、その気分はよぉ」
殺してない!!