#028:軽快な(あるいは、みんな、ダメな)
「中央環状から川口線でいいのか? ま、適当に行くぜ。東北道に乗っかればいいんだろ」
アオナギがレンタルしてきたシルバーのセレナは後部座席が畳めて、確かにそこで作業は出来そうだ。でも揺れない?
「アタイはこの道20年以上よぉん。劇団の仲間とあっちこっちで公演してた時は、荷物ぎゅう詰めの車内で切ったり縫ったりしたもんよぉ。余裕。てか快適」
ジョリーさんはミシンまで持ち込むようで、衣装の元となる布やら型紙やら諸々の道具を詰め込むと、3列目の座席をはね上げてもスペースは結構ぎりぎりになった。運転アオナギ、助手席に丸男、僕はジョリーさんの手伝いで後ろに一緒に乗り込む。
「そいじゃあ出発といくか。いざ、冬の東北」
エンジンをかけつつ、アオナギが言う。成り行きで故郷の宮城に帰ることになっちゃったけど、家に行ける時間があったら顔出しにいこう。さあ出発だ。クルマは一路、北を目指して走り始めた。
「ふんふんふんふーん」
鼻歌を歌いながらも、ジョリーさんの手は忙しく動いている。手先までと考えると、結構揺れがあると思われる車内だけど、本当に余裕のようだ。中央環状線に出て北へ。江北JCTまで全くスムーズに進めた。深夜0時。川口線に乗ってさらに北へ。
「ところでムロっちゃんは何で『溜王戦』に出ようって考えたのぉん?ま、その才気を試したいっていうならわかるけどぉん」
ジョリーさんが僕をねめつけつつ聞いてくる。幾度となく言われていることだけど、僕の何がこれほどまでダメ人間たちを畏怖させるというのだろう?
「お金です。それで助かる命もあるんです」
とりあえずでまかせをこいておいた。まあ、という顔をして、ジョリーさんはそれ以上掘り下げるようなことはしてこなかった。これ、使えるかも。
「ジョリーさんこそ『溜王』に出場されないんですか?」
ダメオーラというものがあるなら、それを強烈に発してそうな方を見やり、僕は問う。
「……アタイはもう引退。自分の店も持てたし。夢をかなえたからねぇん」
少し寂しげな目をした。ように見えたがわからない。
ジョリーさんは服の設計図みたいなのを見ながら、何やらそれを固紙にざっざと写している(型紙をつくっている、とのこと)。プロの仕事だ。見ているだけで凄さが伝わってくる。
ほんと、ダメ人間と言いながら、ダメな人はいない(一部除き)んだよなあ。ますますDNCの謎は深まるばかりだ。ジョリーさんの引いた線通りに型紙を慎重に切り抜きつつ、僕は改めてそう思ってしまうわけで。