＃０２７：応変な（あるいは、遥かなる旅路よ、さらば東京）
「だがよ、お前さんも言った通り、『溜王』の予選は土曜の８時に迫ってる。今日が火曜で、実質、水・木・金しかねえ。今からその足りない布発注して、それで衣装つくってって、素人目にも間に合いそうもねえが」
アオナギはあくまで否定的。そして、
「……発注してたんじゃ、一週間は最低かかるわ」
ジョリーさんもそう告げる。打つ手なしなんじゃ……
「……取りにいくのよ。この幻のダークグリーンビロードを直で獲りに行くのよぉん。道中アタイが衣装を作りつつね。それで行って帰ってきた時には３人分のワンピースが完成していて予選にも間に合うって寸法よぉぉ」
な、なんだってーっ。というか、そんなことほんとに出来るの？
「どこにあるんだよ、その布きれは。『道中』って何かいやな予感しかしねえが」
アオナギの懸念通り、
「気仙沼と一関の間くらい。そこの布屋に在庫あること確認したわ。車なら６、７時間ってとこよぅ」
地元だ。新幹線で行った方が早い気がするけど。
「車の中で作業するのよぉ。それに色々、美味しい店にも寄れたりするじゃない？ アタイ行きつけの海鮮居酒屋、まじ、これ海なんじゃね？ くらい美味しいんだからぁ」
腹は読めた。小旅行を楽しみたいだけだ。
「なる……ほど？」
「理にはかなってるな」
即答の二人だが、そこに理はないだろ。
「……じゃあ晩御飯食べてー、支度してー、１１時頃出発にしましょうか。道も空くだろうしねぇん」
ジョリーさんはすっかり東北の海の幸に心を持っていかれてる。まあ美味しいんですけどね！
「クルマ借りてくらぁ。ミニバンでいいか？ 作業しやすそうだろ？」
アオナギが上着を羽織りつつ聞く。
「ＯＫよぉん。きゃー、何かわくわくしてきちゃったー」
いそいそと荷物をまとめ出すジョリーさんだけど、ま、かくいう僕もちょっとうきうきしてきた。調べてみたら片道４６０ｋｍ。ほどよい旅になりそうだ。と、この時はそんなお気楽な気分でいたわけで。
