#024:鮮烈な(あるいは、クール&グレイシアス)
「これです」
逡巡すること数十秒、意を決して僕は検索して出てきた画像を、アオナギ・丸男に向けた。
「そ、そいつは……」
「『メイドリアンⅢ世』……またえらいマイナーどこを持って来たな」
いわゆる萌えに特化したメイド姿の女性3人組ユニット。僕の引き出しにはこれしか無かった。頭にあったのは、極力肌の露出は抑えること、でないとえらいことになると思ったわけで。
「ええ。ただ参考にするはしますが、これをアレンジしようと思います。純白のカチューシャとエプロン、これは鉄板なので外せませんが、下に着るロングのワンピース、これを赤・青・緑の三色にする」
僕の必死のプレゼン。苦手とかそんなことは言ってられない。娑婆に残る未来のために……!!
「面白い。だが……」
一拍後、アオナギが食いつく。しかし、
「……色分けはいいが、派手すぎやしないか?普通黒のところを。そんなんじゃメイド萌えは引っ掛けられねえぞ」
そう来たか。考えろ、僕。
「明るい色を想像してませんか? ビロードのような深い紅・蒼・碧。これなら許容されるはず。いや、逆に盲点で新鮮かも。そしてそれぞれのカラーのワンポイントアクセでキメる」
よくわからない理論だが、ここは勢いで押すしかない。
「『アイドル化』してるって言ってましたよね。甘々のアイドルが多い中、我々のクールかつグレイシアスなソリッド感はきっと審査者に刺さるはずです」
不敵な笑みを浮かべつつ、僕はそう言い放つ。自分で言ってて意味は判らないが。
「しかしよぉ……何か地味っつうか、やっぱセーラーの方が……」
丸男が渋るが、僕の演算能力は今、限界突破中だ。
「……フィンガーレスグローブをワンポイントでキメるというのは?これは来ますよ。ハウスキーピング感と、格闘感とのギャップ」
ええい、何でもいいから押しきれ!
「……あるな」
にやりと丸男。何が何をもってありかは気にしない。食らいついたんだ、竿を立てろ!
「……安寧のダメアイドル界に突如現れた地獄からのメイド使者……『メイド・イン・HELLン』。ここに結成を宣言する!」
テーブルにばん、と振り下ろした手で、そこに広げられた数多のアイドル画像が印刷された紙を握りつぶす。決まった。うぉぉぉぉ、と両腕を突き上げる丸男を尻目に、アオナギは例のくっく、という笑い。
「やるじぇねえか、少年。本当に『溜王』獲っちまうかもな」
また一歩ずつ踏み違えていっているのかも。でもこうなったらやるとこまでやるまでだ。何事かとスマホを向けてくる通行人の方から、僕は顔を背けつつそう決意するのであった。