#233:霹靂閃電な(あるいは、ふたりでレベル上げて)
「まあ何でもいいさぁ。ワタシはこの後、お集りいただいた各界の重鎮方とのパーティーへ行かなければならないのでね。くく、キミらダメクズ共がのたうち回った、本日のこの『溜王戦』の映像を肴にお偉方と飲むのを、ワタシは何より楽しみにしているんでね。ささっ、とっとと対局を済ませてしまおうじゃないか」
ミズマイはあくまで上位に立ちたいようだ。鷹揚な態度を崩さない。
ここまで分かりやすい奴には初めて会ったよ。世界がこんな単純な人間しかいなかったら、苦悩や逡巡や、後悔や絶望なんて、存在しないのかも知れない。
「……」
でも僕らは皆、それぞれのダメを抱えたダメ人間だ。それらを背負って、拡散して、共有して生きていくことを選んだ人間たちだ。
「……さあさ、ぼんやり突っ立ってないで、準備、準備だよぉ、時間がもったいない。イッツア、ショータイムっ、始めようじゃないかぁ」
ミズマイ。それが分かってないなら、お前にどうこうされるのはここまでだ。
「では準備! 完了かな!?」
僕らはそれぞれ、黒服たちに、両手十本の指をそれぞれ通すリング状のものが嵌められ、そのリングから伸びる細いケーブルを腕を伝わらせ、背中にリュックを背負うようにバンドで固定された装置へと繋がれた。
例の嘘発見装置だ。嘘をついたと認識された瞬間、体がえび反るほどの電撃を与えてくるそうで。実際まだ食らったことは無いけどね。改めて「嘘は御法度」ということを僕は肝に銘じ、戦いに臨む。
準備は整った。僕らとしての……準備もね。ダイバルちゃんが確認すると共に、球場の照明は落とされ、リング上に四方からスポットライトが当たる。
「さあっ!! それでは開始だっ!! てめえら、準備は万端か!? ダメ!人!間!に! なりたいかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
電飾実況少女、ダイバルちゃんの煽りに、球場内は最高潮の盛り上がりだ。その只中を、僕ら対局者6名は、リング上で互いに向き合う。
「ダメ人間になりたいか」? 僕はなりたい。お互いのダメを認め合い、ダメをダメとして愛し、人を人として愛せる人間になりたい。
「っておいおい~、6人全員の『バトルロイヤル』って提案受けたけど、実際どうすんのよ、これぇ? DEP撃ち合うにしろ、座席が無いと『ボルティック』かませられないでしょーが。なあなあなあなあ、ムロトミサキくぅん、ちゃんと考えて段取らないとぉ、そういうとこ、ワタシの華麗なる構成を見習って欲しいもんだねぇ~」
鋼鉄のアームに取り付けられた「対局席」は、リング上から撤去してもらった。だから、リングには対局者6名が突っ立っているだけだ。ミズマイの言う通り、確かに詳細な説明がまだでしたね。
……まあ、わざとだけど。
「ああ~、だから、『リングの上で、双方のチーム6人が全員上がって、撃ち合う形式』って言ったじゃないですか~、ボケちゃってもう~」
ひときわ馬鹿っぽい感じで、馬鹿にしたような口調で言ってみる。案の定、ミズマイは余裕をかましていた軽薄な笑顔に、ぴしりとヒビが入ったかのように硬直した。ああー、わかりやすいわかりやすい。今日び、AIの方が感情豊かで、もっと表現豊富に振る舞うんじゃないの?
「……だから、その撃ち合っての評点と、評点を受けてのペナルティをどうするかって言ってるんだぁ。キミの方こそボケないでくれたまえよ。ええ? ムロトくんよぉ」
恐い恐い。一気にドスの利いた低い声になっちゃったよ。と、その両隣のルイさんミロちゃんが、びくりと体を震わせた。なるほど、裏ではこんな風に娘たちを恫喝してるわけだ。上っ面だけのクソ野郎が。
「だーかーらー、撃ち合うのがDEPだなんて、ひと言も言ってないじゃないですかぁ~」
僕はにんまりと、ミズマイを小馬鹿にするような笑みを形作ってみせる。あん? と眉間に皺を寄せ、こちらを威嚇するように顔と、その下顎を突き出してきたミズマイだったが、次の瞬間、その後頭部に棒状の物が振り下ろされていくのを、僕は目で追っていた。
「……撃ち合うのは『物理』だよ」
「ナバフ」みたいな声を発しながら、ミズマイの長身が前に崩れ落ちていく。
「……『五月雨花鳥風月』」
阿修羅と一体化した丸男が、重々しい声でそう告げた。言葉の意味はよくわからないが、とにかく凄い威力だ。六本の腕の一つに握られていた棍棒のようなものを、丸男がその手に取り、思い切りぶちかましたのであって。
そう、ハナからこいつと、まともにやり合おうなんて考えていなかった。全部をぶち壊す、ここからがショータイムだっ!!