#023:濃厚な(あるいは、どうか正夢)
それにしてもいい天気だ。いい陽気。外の席はそれはそれで正解なのかも知れない。
「……河南はかつての仲間よ。だが、タイトル獲ったあたりから俺らとは距離を取るようになった。あいつはダメを踏み台にして、まっとうな世界へと一人、旅立っちまったんだよ」
アオナギは吐き捨てるように言うが、いやいや全然いいことでしょ。なぜ敵意を向ける? 妬みか?
「あの野郎に箸の上げ下げから何からダメを教え込んだのは、何を隠そうこの俺なんでげすよ。その恩も忘れ……あいつは……『更生した元ダメ』という新ジャンルを標榜し、再び舞い戻った。ダメの王道を行く俺らに……完全に叛旗を翻しやがったんでげす」
また赤黒くキレかかっている丸男。いやいい事なんじゃないの?ダメ人間を救おうと頑張っている感じでしたよ?
「あんなもんはエセよ。いくら共感を呼ぼうが、信者みたいのをわんさか引きつけようが、ダメの本質、根底を履き違えちまってやがる。あいつのやろうとしている事は、昨今の『アイドル化』よりもタチが悪いぜ」
まあまあまあまあ、それぞれに思うところはあるだろうし、多分答えは出ないのでしょう。それよりも今日集まった目的を忘れずにいきましょうよ。
「さて、そんなことよりだ。その『アイドル化』の話が出たところで、『ミサキちゃん計画』の詳細を詰めなきゃならんよな」
とは言え、ならんことにはならんのでしょうか。アオナギは懐から何かパソコンの画面をそのまま出力したようなプリントアウトの紙束を取り出し、小じゃれた深い青色のテーブルの上に広げ、折り目を延ばし始めた。
「今も根強くアイドルのイメージとして残ってるのは、やはりこれ系だ」
アオナギが指したところには、学校の制服のような揃いの衣装に身を包んだ大勢の女の子の画像があった。うんまあ、これ系でしょうね。
「でもよ兄弟、これだと『C-ブランド』の奴らとかぶっちまあよぅ」
丸男が指摘するが、そもそも自分らがこういう格好をすることへのつっこみは無いのか。
「あせるな相棒。他にもある。こいつとか、こいつとか」
アオナギは次々とアイドルの画像を広げていくが、これ印刷しなくても良かったのでは?このテーブルだけさらに異様な雰囲気に包まれてきた。
「何かピンと来ねえなあ。兄弟、俺の意見も言っていいかい?」
丸男が珍しく建設的な提案をしようとしている。アオナギは頷くと手のひらを向けて促した。
「美少女戦士とかのよぉ、セーラー戦闘服みたいなのはどうよ。戦うっていう気合いも入りそうだしよぉ」
あれ正夢だったのか。ほーほーと納得しかけるアオナギ。いや納得する要素何もないだろ。あんなビジュアル出てきたらインパクトどころの騒ぎじゃない。
「俺も今思いついたんだがよ、アイドルをもっと格調高くしてだな、正に『神ってる』感バリバリのこう、神話に出てくるような……」
それも見たー! あんなポロリ必至の布きれ、絶対に駄目だ。ハタチ早々実刑を食らうのは避けたい。
「そ、それもいいですけど、何か『3人』ってとこをうまく使いたいですよね。3人ならではっていうような……」
もう少しマイルドな何かを僕から提案せねば。あの悪夢が予知夢になってしまわぬように。
「おお、言うじゃねえか少年。言うからにはあるんだよな?『3人』のアイデアが?」
アオナギがギリ乗ってきた。この流れで良い案をぶちかまさないと。「溜王戦」を前にして早くも窮地に立たされた僕の脳は、かつてないスピードで回転を始めている。