#215:再三再四な(あるいは、がんばれ!胸鎖乳突筋)
「……指名されてのち、DEPを相殺出来なかった場合! その哀れなる者には、『10,000ボルティック』級の電撃が……『両膝』に与えられるっ!!」
サエさんの説明は続くけど、ええー、今回は尻じゃなくて膝! いや、今回に限って言えば脚部へのショックの方が、致命的になりかねんよね……痒い所に手が届く嫌がらせ度合いだ。元老ォォーっ!!
「……説明は以上っ!! 各自スタートラインに付けって言ってんの!!」
そんな僕の内心の憤りも捨て置かれ、いよいよ位置についての合図が出される。まだ心の準備が出来てないよ!
六時方向の今いる正方形の足場がスタート、でありゴールでもある。僕ら対局者六名は、チーム交互にスタートラインに並ばせられるけど、ちゃんとアウトレーンに行くほど前方へ迫り出すかたちの公正な感じだ。まあその公正さ加減が逆にうさんくさいんだけど。
「……少年、全力で来い。私を哀れなピエロにさせないでくれ」
僕の左隣、黒ずくめのカワミナミさんが、前方を向いたまま、そう囁いてくる。驚いて僕はそちらの方を振り向いてしまいそうになるけど、首の筋肉を総動員してそれを堪える。その声色は、初めて会った時からの、自然なカワミナミさんの声だった。良かった。やっぱりカワミナミさんはカワミナミさんだった。どの道……全力でいかせていただくしか無いわけですから、そこはご心配なさらず。でもピエロて。ピエロはワイの専売特許や。
「……仙台で一緒に温泉入った以来だね……キミに、また会えるなんて光栄」
おっとー、右隣からはそんな囁き響く、甘いキャノナーヴォイセズがぁぁぁぁぁ。ぐらりとその声の主、アヤさんの方に向き直りたくなる衝動を、体全体の、普段使ってないだろう筋肉も総動員して堪える僕。まあ右前方でスタートの合図を出そうとしているサエさんの刺すような眼力を受け続けているから出来る芸当なわけだけど。は、はよスタートしてぇぇぇ。
「初摩よぉ、少年にはもうお前のやっすい色仕掛けは利かねえとよ。何かもう、実況している紫色と、その……××××的なコトをTPO構わずぶちかましてるってもっぱらの噂だぜ?」
そんなアヤさんを揺さぶるかのようにその右隣のアオナギがのたまう。アヤさんがその言葉を受けて、僕の方を淫獣でも見るかのように引きつつ伺ってくるけど、これ僕も揺さぶられてね? それにTOはともかくPはわきまえていますって!
「……位置につきなさいってば」
サエさんの基本に忠実なツン号令に従い、僕らはめいめい、力の入りそうな姿勢を取る。というか元老チームはともかく、うちの面々はローラースケートってやったことあるのかな。それプラス、このロケティック何とかは輪をかけて未知だよね……かくいう僕もその恐ろしさで顔がパンパンになってるかのような錯覚が襲ってきているわけで。でもアオナギ、丸男はいたって自然体のようだ。まあいつもの事だけど、それは安心させられる。
「……用意」
いよいよだ。何度も言うけど、やるしかない!!