#214:呉越同舟な(あるいは、オールforワンマン)
気を付けなければいけないことは、「任意の攻撃対象」に味方も入ってしまうということなのではないだろうか……それもレース中、順位はめまぐるしく変わると見た。だったら相手チームの3人を固定してそれぞれの指に割り振った方がいいんじゃないの? と、僕が至極まっとうな提案をしようと軽く手を上げかけたところで、
「……評点者は前局と同じく、一万人のお前らなんだからねっ!! DEP終了時点から『三秒』っ!! 三秒以内に評点付けないと無効になるから、ボケっとしてるんじゃないわよっ!!」
サエさんの観客へのツン罵倒がそれを制する。会場には、うおおおお、とボルテージの上がった野太い声がこだまするけど、人それぞれ、いろいろな、よろこびが……ある。
「ローラーヒーロー、ろーらーひーろー」
ヘルメットやらプロテクターやら一式を身に着けたアヤさんが、シールド越しでも引き込まれる笑顔で歌うようにそう繰り返している。か、可憐だ……いや、いかんだろ、そろそろ学習しろ、僕。ウェディングドレスにそのごつい防具を着けている姿は流石に違和感があるものの、あれ? こういうファッションもありじゃね? 的な錯覚に陥らせるほどの魅力(魔力)がこのヒトには備わっているわけで。
「……」
その輝く白いドレスとは対照的な、黒一色の装束で身を固めたカワミナミさんは、静かに開始の時を待っているようだ。黒いヘルメットのシールドも何故か黒なので、その表情は全く読めない。まあ見えたところで、感情を完全に押し込めているから表情も何も無いんだけどね。本当に、どうしてしまったっていうんだ、カワミナミさん!
「ムロっちゃんよお、あんまし思い詰めるねい。お前さんのダメ力がありゃあ、こんな『ロケティック=ローラーヒーロー』なんざ、児戯に等しいぞなもし」
きちんと用意されていた3Lサイズの防具に、何とかぎりぎりでその巨体を収めている丸男が、両頬をヘルメットによって両側から圧迫されたアッチョン顔で言ってくるけど、なぜ正式名称でのたまう?
「そうだ少年、ここが正念場と見ていいぜぇ。間違いなく本年最強のチームだろうからよ。図らずも初摩と河南っつー相容れないと思ってた奴らがつるむっていう異常事態。チームワークは無きに等しいだろうが、元々個人プレー上等の二人だ。気ぃ抜いたら瞬殺は目に見えてる」
アオナギの言う通り、実感・実体験あるだけにこの二人の強敵感は分かりすぎるほど分かっているわけで。
「……もう一人は見たこと無かったが、瑞舞ミロの姉貴ってこたぁ、まあそこそこの猛者だろう。全くもっていい材料は見当たらねえが、そこでこそ、少年の真骨頂だ。気合い入れていこうぜ。さっきも言ったかもだが、前局と同じように、俺と相棒が体を張る。少年は敵の総大将、初摩を一騎打ちで屠れ」
いつも通り力が抜けていながらも、何故か力強いアオナギの鼓舞する言葉に、僕は腹の底に火が灯ったかのような熱を感じていた。
柄にもなく掌を下に向け差し出してきた丸男のまん丸の手に、僕とアオナギは自分の掌を重ね合わせ、この頂上決戦への決意を固める。