#213:経緯万端な(あるいは、ハッピネス察知せず)
「……いまアンタたちがいるここがスタート地点であって、ゴールでもあるんだからねっ。反時計回りに『7周』したらゴール。チームの誰かひとりでも毛ほどでも先にゴールに飛び込んだチームの勝利……わかってんでしょうね?」
サエさんの説明は続くけど、勝負はこのローラースケートレースだけではきっと無いはず。曲りなりとも溜王戦なんだ、「DEP」を撃ち合う要素は必ずある。いやあってくれと思う。じゃなきゃこれ、ただの未来のスポーツよ。
「もちろん、DEPを撃つことは可能……だけど、その『権利』を得るには、コース上のランダムに光が放たれる『マス目』を通過する必要があるんだからねっ。青い光は『10秒』、黄色は『20秒』、赤は『30秒』の着手時間が加算されるっ!!」
そういう形式なんだ。コースを見渡すと、デモンストレーションなのだろうか、いくつかの「マス」から上空に向けて極太のレーザー光線のような色とりどりの光が放射されている。あれに体ごと飛び込めば、「着手権」を得ることが出来るんだろう。
「……」
そんな説明を受けている間にも、僕らの傍には黒服たちが何人か寄ってたかって、いろいろな「装備」をてきぱきと身体に装着していっている。
肘と膝には樹脂製と思われる軽くて薄いプロテクター。それを収縮性のあるバンドで腕やら脚やらに固定されていく。カチューシャとウィッグは丁重に外され、頭にはフルフェイスのヘルメット。何か物々しいな……内側にはインカムのようなものがあって、多分これでチーム内の会話が可能になるんだろう。
そして胴体にも、こちらはラバーっぽい柔らかな質感のプロテクターが被せられた。結構な重装備。両手もすっぽりと覆うグローブをはめさせられ、そして足にはこの勝負の命運を賭す、右左一枚ずつの大き目のホイールの付いたローラースケートを履かされる。確かにこの見た目、ローラーヒーローと言えなくもない。
「右手を握りこめば、『持ち時間』を消費しつつ『DEP』を放つことができるんだからねっ! ただ注意しなければいけない点は、『自分より先行している選手が着手を試みている場合、下位の自分は着手することは出来ない』ってことをわきまえなさいよねっ!」
ええー、ということは、上位者が着手している限り、それより遅れている者には着手権すら回って来ないってこと? やっぱりこのレース、いかに速くこの円周をかっ飛ばすかということに重きが置かれている感じだ。何でそうなる?
「着手者は、任意に『攻撃対象』を選べる! 『自分以外の5人の現在順位に対応して、左手の親指を曲げると1位を指名、人差し指が2位』……以下同文なんだからねっ。ちなみに自分がターゲットにされた瞬間、左手首のアラームが鳴ってランプが赤く点滅するっ! そうなったら、すかさず自分もDEPを放つことで相殺出来るから諦めないようにねっ」
……てなことを、高速で周回するこの「レース」の最中に行うんだよね……ほんとに出来るのかって話だけど。不安だ。不安しかなーい。