#211:奇想天外な(あるいは、飛び出せヒーロー)
異様な雰囲気になってきた。先ほど敗北を喫したカワミナミさんが、まさかの瞬時復活で、僕らの前に立ちはだかった。
おそらくは不本意と思われる悪役っぽい出で立ちとキャラ付けで。
考えていることは、やはりこの僕と戦いたいということなのだろうか。確かにそれもあるとは思うけど、何というか、それだけじゃないような空気も僕は感じている。直感だけど。
「それでは、今回の試合形式を申し上げます。『マネジメンタル=トラッカー』、GO ON!!」
サエさんの実況と共に、僕らの乗っている正方形のアクリル足場が振動したかのように感じた。いや、実際震えてる。地鳴りのような不気味な音も響いて来る。
えっ、と思う間もなく、巨大な台車のようなものに乗せられた、僕らが今乗っかっている「足場」と同じようなものが、トーイングカーのような車両に引っ張られてきた。縦横25mと先ほど説明がされていたけど、それと同じくらいの大きさの物もあれば、それよりは縦というのだろうか、そちらの方の長さが半分くらいの横長長方形の物も混在している。
ええー、さっき運営の予算尽きたんじゃないとか考えてしまってたけど、逆だ。最大級の予算をぶっ込んできた。
「……」
唖然とする僕を後目に、次々と追加で現れ、横づけされていくアクリル足場。あれよあれよと作業員たちの手で設置が進んでいくと、その全容がようやく分かってきた。アクリルのトラックだ。一周何百メートルかくらいの円周。この野球場内に、陸上競技場が姿を現したかのよう。よくやるよ、本当に。
「……」
僕らがいる最初からあった正方形足場は、グラウンドの位置で言うとホームベースの辺りにある。便宜上ここを「6時位置」とすると、そこから真っすぐ向こう「12時位置」、センター方面に同じくらいの「正方形」が位置している。あとは「3時」と「9時」の所にも「正方形」が。そしてその東西南北の正方形をつなぐようにして、長方形の足場が二枚ずつ並べられている。
よく見ると、足場同士は内周を形成する一点で接しているのみで、外周へ近づくほどに、隙間が広くなっていっている。いやな、非常にいやな予感しかしない。
「半径約47メートルっ!! 外周約300メートルのこの透明なトラックを! 『ロケティック=ローラーヒーロー』を装着して滑走し!! 最も早く『7周』した選手が所属するチームの勝ちとなりますっ!!」
サエさんの告げたその対局形式は、想像の斜め上を行き、かつ度肝を抜かれるものだった。うん、完全なスポーツじゃないか。運営……そして元老……お前らはダメを履き違えているっ!!