#209:汚名返上な(あるいは、いかずちの女王)
「……まずはいきなりの真打登場っ! 倚界の全てを覆し、天上から全てのダメ達を焼き尽くすっ!! もはや説明不要! 最強怒涛のダメセラフっ!! 元老ナンバー25っ、クジュ=ラ=ハ、いやさ、初摩アヤっ!! 出陣っ!!」
サエさんの紹介の途中から、どわあという歓声がそれをかき消すかのように沸き起こる。ハンパない騒音だ。会場全体が音になったかのようなその大音声に、しばし僕らは圧倒されてしまう。
その中をゆっくりと、気怠そうな笑みを湛えたまま登場してきたのは、仙台での邂逅からわずか何日かぶりのアヤさんだったわけで。明るく艶のある茶色の髪は長くもなく短くもなく肩ぐらいまで垂れ落ち、不思議なうねりを形作っている。
流し目が本当に似合う切れ長の瞳は艶やかに濡れ、強力な磁力を発しているかのように思えた。そして今にも何か引き込まれそうな言葉を発しそうな花の蕾のような唇は、僕らの視線をくぎ付けにしてしまう。
「……」
あ、いや、集中ーっ! 殺気をはらんだサエさんの視線から逃れるようにして、僕は両頬をぱんぱんと平手で叩いて気合いを入れる素振りをする。
舞台上に現れたアヤさんは、華奢だけど出るとこ出てます的な肢体に、純白のウエディングドレスのような……いやそのものかも。Aラインの肩の出たドレスをまとっている。流石にヴェールは頭に付けていないものの、その輝きを放つ神々しい出で立ちに、僕の思考はしばし止まってしまう。
いやいやいかんいかん、仙台の二の舞じゃないか。しっかりしろ、僕! あれに巻き込まれたら一瞬で勝負が決してしまうだろっ。
「続いて登場しましたるはっ!! 瑞舞三姉妹の中堅っ!! ミネソタ帰りの帰国子女っ!! 戦慄のダメバイリンガル、ニダ=スイグウこと、瑞舞コニーっ!!」
くせのある金髪をワイルドに背中まで垂らした、かなりバタくさい顔の、しかし大きな瞳はくりくりと絶え間なく動いて表情を垣間見せ、にっこりとほほ笑んだ顔は相当魅力的な……でも瑞舞ってことは、あのミロちゃんのお姉さんっ!? あまり似ていないけど、美形は美形よね……
カウボーイハットに、首には真っ赤なスカーフを巻き付け、派手な黄色とオレンジの混ざり合ったチューブトップ、どんだけ短いのというくらいの黒のホットパンツ、足元は革のロングブーツで固め、何だろう、間違った、いやでもステロタイプとして定着したかのようなカウガール様の姿をしている。そしてこれまた凄い歓声。うーん、雰囲気では完全に押されているね、僕らは。そして、
「……最後に控えしは、まさかまさかの大復活……」
サエさんの声が微妙なニュアンスを含んでいく。メンバー交代したって言ってたけど……と、次の瞬間、僕は今日いちばんの驚愕に襲われるわけで。
「……レッドストライプライトっ!! ブルージェットレフトっ!! 閃光の足技で未来を切り拓くっ!! 殲滅の女帝っ、河南ぃぃぃっ、ジュン!! 見参っ!!」
……カワミナミさんだった。あまりのことに僕の顔は完全に固まってしまう。どういうこと?