#202:無遠慮な(あるいは、コーリングマイハート)
伏し目がちだが、大きい目はかなりのキュート。そして小作りで整っていると思われる顔。先ほどまで確かに可憐さを醸し出していた僕の目の前の少女が、ものすごく威圧感を放射しながら目を剥いて威嚇してくるよ……
「なっ……だっ……!?」
その眼力を真正面で受け止めながら、僕はその豹変っぷりに対処出来ずに、まともな言葉すら発せられないわけで。今までが演技? ネコ被ってたってこと? それともこれが演技? どちらだとしても恐ろしい。でも……演じようと思って出来るもんでも無いと思うけど。
「あ、ああーっとお! ついに! 禁断の扉が開いてしまったぁっ!! これはもう惨劇しか私の脳裏には浮かびません……」
実況なのか実感なのか、猫田さんのつぶやきが僕の脳髄に刺さるかのように響く。惨劇……ちょっ! 惨劇て。
「残り10秒っ!!」
まだ時間あるのかっ!? 早く終わって! と僕の懇願もどこにも届かず、ギャンっという音が聞こえそうなほどの激しいロボさばきで、ミロちゃん機が再び僕に迫ってくる。ここは避けるしかないっ、とアクセルを踏み込んだ僕だが、ロボは全く反応しない。
もしや……エネルギー切れか!? この踏ん張り利かない状態で体当たりでもくらったら、吹っ飛ばされて場外になってしまうんじゃないか!? でも駄目だ……っ!避けられないぃぃぃぃ!
「……」
「……」
なす術なく、思わず目を瞑って両手で顔をガードしてしまった僕だが、あれ? 追突の衝撃はいつまで経っても来ないぞ? 恐る恐る目を開けてみると、ロボとロボがほぼほぼ触れ合うくらいのゼロ距離で、ミロちゃん機のエネルギーも切れたようだ。その機体は完全に沈黙している……あ、あぶない、ギリギリの所だった。
そしてほぼ同時に「戦闘フェイズ」が終了したことが高らかに鳴ったゴング音にて告げられる。しかし約10cmくらいの近距離に、覗き窓から体を乗り出し、今にも僕を喰らおうとせんばかりに大口を開けた凄まじい形相のミロちゃんがいたわけで。こ、こわ!
「み、」
ミロちゃん……なんですか? あなたは本当に先ほどまでの……? ショックで声も出せない僕は、目でそう問いかけてみるけど。
「ミロじゃねえ。今のオレは『サブロー』だ」
通じたのか、眼前のミロちゃんが傲岸そのものの顔でそう凄んでくる。顔と声はさっきまでの可憐な少女のものだから余計違和感があるよー、こわいよー。そして「サブロー」って。も、もしやこのお方は人格が二重的な、その……あれあれあれな人なんですか?
「さて、形勢・体勢はそのまま持ち越しとなりますよ! 『第2ステージ』、着手順スロットォっ!!」
こ、こんな近距離のままでDEPフェイズに移るの!?面と向かい合いすぎの僕とミロちゃん……だったサブロー氏に告げられた着手順は、
<1:ミズマイ
2:ムロト >
僕の後手番。DEPで後れを取ることは、その後の「戦闘フェイス」にがっつり響くことを学習した。ここはもう全力で……いくしかない。