#201:非通知な(あるいは、いつだってひとりはサブロニカ)
あっという間の攻防。しかし菊門へのダメージは相当なもん。何とか立て直したものの、僕は必至状態まで追いつめられてからの、ミロちゃんの火事場力に驚き、しばし硬直してしまう。
かなりの電撃だったよ!? それを喰らうのを承知で、ノックバックを止めるために腰を座席に降ろせるものなんだろうか……先ほどから沈黙を保ったままのミロちゃんの様子も非常に怖いわけで。
「……」
ロボットの胴体に開けられた覗き窓からは、顔を伏せたままのミロちゃんの前頭部が見えるばかりだ。
何かを耐えているのかな? それとも気を失ってしまったとか……後者なら絶好のチャンスなんだけど、そうそううまいこと行くわけないって事は、先刻ご承知すぎるほど身に染みているわけで。
注意深く、不気味な静寂のままのその黒い機体を見やる。「4四ミズマイ」「3二ムロト」といった立ち位置か。僕らの間の距離は10mも無い。
「ああーっとお、凄まじい必殺技の応酬の後は、またしても間合いの計り合いかっ!? お互い動かない、いや動けない!? 濃密な時間が過ぎ去ってゆくーっ、『戦闘フェイズ』残り35秒っ!!」
猫田さんの実況が響くが、未だミロ機は沈黙を保ったままだ。本当に気絶してたり? だとしても、またはそうじゃなくても、この30秒ちょっとを乗り切れば、次に繋げられる。
エネルギー残量はミロちゃんが「22%」、対する僕が「7%」。お互い「必殺技」をぶっ放した挙句、両手を滅茶苦茶に振り回したもんだから、そのくらいカツカツになるよね……正直、このフェイズでやれることはほとんど無いと思われる。
「残り25秒っ!!」
このまま穏便に過ぎ去ってくれれば……!! そう祈るような僕だったが、得てしてそんな時こそ起こってもらいたくないことは起こるわけで。
「……ほう……こで……」
ミロちゃんの俯けた顔の方から、呟くような低い声が漏れ出てきた、とそう思った瞬間だった。
「!!」
「必殺技」がいきなり来たっ!? 凄まじい速度でミロちゃんの黒い機体が、完全に静観するばかりだった僕の機体にぶち当たる。激しい衝撃……っ!! 機体がっ、弾かれる……っ!!
「おおおおおおっ!!」
弾かれてアクリル足場の端の方まで飛ばされてしまった僕のロボティックだったが、アクセルをベタ踏みすることで何とか転落は免れた。それにしても気ぃ失ってたと思ってたのに!? 意識あるなんて!!
「……」
と、僕がそんな呑気な事を考えていたその時だった。
「てっめえ……よくもケツにきっついの喰らわしてくれやがったなああああああああっ!!」
覗き窓から、ミロちゃんがその顔を正面に向けたのが見えたけど、何か違うっ!!
「次ぶっ殺すからよぉぉぉぉ、覚悟しとけやぁぁぁぁっ!!」
顔は清純、声も清純のまま。しかしてその歪められた表情と、ドスの利いた言い回しに、僕の思考は中断してしまう。あれ~? どなたですぅ~?