#020:苛烈な(あるいは、紙一重の)
「『謳将戦』という倚戦に当時の特例で参加できた17歳の私は、あの二人の見立て通り、あっさりと予選を勝ち上がっていった。ただ単に今までのダメだった人生を吐露しただけだったが、それを賞賛されるなんて思ってもみなかった。私の中で何かが変わっていったのは、その時だったのかも知れない。そして勢いそのまま決勝リーグでも好成績を上げ、当時の謳将、春中有乃に挑むこととなった。だが完敗だった。七番勝負を4-0でねじ伏せられた私は、しかし敗北以上に大きなものを得た。それこそ人生を変える大きなきっかけを得たのだ」
待てよハルナカユウダイ。聞いたことがある。
「そう…後に春中アノと改名し、『男子1500m走』で『女性』初の金メダリストとして認められた『世界のハルナカ』。そんな人と出会い、お互いのすべてをさらけ出してぶつかり合えたのだ。『来年もこの場所で君を待つ』。最後にそんな言葉もかけられた。くだらないいじめごときに屈して腐ってる場合では無かった。私は次の日からまた高校へ戻った。吐き気は不思議と起こらなくなっていた。腫れもの扱いも無視も嘲笑も気にせず、ひたすら知識を詰め込んでいった。ただ春中さんに成長した自分を見てもらいたかった」
春中アノ。世界的アスリートもダメの出身?何だかもう僕はわけわからない。でも目の前のカワミナミさんはその人の事を語る時、すごく優しい目をする。
「一方で徹底的に体を鍛えた。暴力には暴力で抵抗してやろうという意味と、後の手術を考えて脂肪をできる限り落としておいた方がいいという判断でな。たまたま駅の裏手で見つけたムエタイ道場に通いつめ、当時120kgあったぶよぶよの体は、半年で半分未満の57kgまでなった。既に暴力を伴ういじめには合わなくなっていた。喧嘩をふっかけられることの方が多くもなっていたが、膝が崩れ落ちるまでローを入れるか、首相撲に持ち込んで相手が吐くまで膝を撃ち込んでやった。どうでもいい干渉をされたくなかったから二度とそういう気が起こらなくなるまでやった。あとはけじめをつけるため、私を襲った奴らもひとりひとり潰していった。徹底して、股間に膝を集中させてな」
にやりとしたカワミナミさんに僕の凍りついた追従笑いが重なる。セーフセーフ。昨晩めったなことをせんで命拾いしたわー。