#198:無尽蔵な(あるいは、いなし、伊那市、ざざむし)
みしり、と互いのロボのボディが押し付け合わされて不穏な音を立てる。背中からぶつかる形でのミロちゃんの黒い機体と、それを体の前面で受け止める形の僕の白い機体。
「……」
力は互角というか、わずかに僕の「押し」の方が強いようだ。盤上の端へと一時は押し出されそうになっていたけど、完全に受け止めてからは逆にじりじりと盤の中央向けて押し返し始めている。
しかしこっちは全力フルパワー、対する相手は「ペナルティ」であるが故のノー浪費パワー。改めて言うけど、元老! これ致命的な不備!!
「く……」
しかし、文句ばかりで事態は打開はしない。「与えられた条件の中で知力・体力を振り絞って戦うしかねえんだよ」という、はるか昔に聞いたかのような、アオナギの声が蘇る。
真正面から受け止めているからいけないんだ。この直線的な力をほんの少しでも、ずらすことが出来たら。相手の力を逆用すれば、あるいは。
「うおおおおおっ!!」
雄叫びで自分を鼓舞しながら……思い切った行動へと僕は踏み出す。緩める、アクセルをほんの一瞬。途端に後方へと押され始めるけど、その挙動の瞬間を狙って、力いっぱい操縦桿を右に倒した。
「!!」
わずかに左の方に押しあたってくれたようだ。相手の力も利用して、僕は機体を反時計回りに回転させて間合いを取り、からくもエネルギーの一方的消費、という窮地を脱した。
「……」
しかしミロちゃんの機体さばきも見事なものであって。僕のロボが離れたと感知した瞬間、その後方突進を即座にやめると、くるりとこちら側に機体の正面を向けてきた。す、隙が無い……
「ムロト選手、凌いだぁっ!! しかし今の攻防でその残りエネルギーは70%まで減少っ!! 対するミズマイ選手は未だ90%以上を保っている!! ……えー、まあ色々言いたいことはあると思いますが、お互い頑張ってくださいねっ」
猫田さんが申し訳なさそうな声で言うけど、まったくだよ!
ジリ貧。その言葉だけしか浮かばない。何か……策は無いのか!? 僕も件の「ペナルティノックバック」を利用する? いやあれ結構コツいるぞ。このロボティック、操縦席からは後方は全く見えない。操縦盤にレーダーのように自機と相手の位置が表示はされているものの、これ視点が固定されていて、ややこしいんだよね……それに「ノックバック」は見る限りかなりの急制動と見た。慣れてない僕が迂闊にやったらスカされて自滅は必定。
そして先ほど分かったけど、全力での「押し」の方が「ノックバック」より威力は上。うまいこと相手にぶつけられたとしても、掴まれて機体を充分形に合わせられたら、エネルギーの分量に余裕のある相手にじっくりと押し返されて場外だ。
「……」
結論は真っ向勝負。それしか無い。思ってた以上にその設定が活用され始めているこのロボットバトルだけど、今度は今度で、ダメの本質から離れてない?




