#192:未踏破な(あるいは、サルバドール先生ごめんなさい)
かなりのディスアドバンテージを経ての、アオナギの手番。この人のDEPの出来の良しあしもかなり落差あるので、いかん方に転びませんよーに、と僕は既に祈ることくらいしか出来なくなっている。
<4th:アオナギ:着手>
頼みます……っ、ここ一番!
「……幼き頃……家と家のほんの隙間にエロ本が投げ捨てられているグッドスポットを見つけて、よくお邪魔してたんだが……子供の頃の体の成長ってのは侮れないもんで、半年前までは余裕で抜けられていた隙間から、ある日、どうあがいても出られなくなっちまって、消防を呼ばれたそんなほろ苦い過去……」
ダメだ。ダメな意味でのダメがここ一番で出てしまったよ。というか、それ、投げ捨ててた立場からのDEPも披露してましたよね。眩暈を感じさせるようなデジャブ感が僕を襲うけど、もはやこの状況、のっぴきならないぃぃぃ。
<4:アオナギ:23,455pt>
丸男よりはいくらかまし、といった程度の評点が。
恐れていたことが遂に現実となろうとしている。残る砦は他ならぬ僕自身なんだけれど、先刻からこの体にのしかかるかのような疲労感が、僕のやる気やら決意やらを微塵に押しつぶそうとしているかのようで……何というか思考に身体がついていかないもどかしさをずっと感じ続けている。駄目だ、ここ一番でしっかりしなきゃいけない時なのに!
<5th:ムロト:着手>
そんなわやくちゃ状態の僕に着手の指示が。こうなりゃ、開き直りでかますしかないっ。淫獣モードっ、ギヤ=セカンヅだぁぁぁぁっ!!
「……中学生くらいの頃……ダリの記憶の固執って絵画ありますよね……あの木に垂れ下がっている時計を見て……ああ、直方体に張り付いているのとか、柔らかそうな物体に乗っている時計たちでは無いですよ?あくまで木に垂れ下がっているのを見て……ふふ、下品なんですけども、ぐしょ濡れになってしまってですね……」
その辺りで着手限界時間の30秒を過ぎてしまったようだ。強制的に僕のマイクが切られる。そう、翼の事をいろいろ言ってたものの、やはり僕らは双子だ。二人揃ってのキュビズムファッカーであったわけで。
「……」
その瞬間、球場の空気が何故か緊迫感を増したかのように感じた。いや、緊迫感というか……一斉に引き潮が如くどん引いた感じ? あれ~、僕として渾身のだったのに~。
「い、異次元……」
実況の猫田さんが思わずそう漏らす。あれ、やっちまった?
<5:ムロト:91,344pt>
……よし! 杞憂だったようだ。最高評点を獲得した僕は少し安堵するけど、相手チームの3人がそれぞれ驚愕の表情を浮かべながら、ガタガタ震えだしているのが、狭い視界の中でも確認できた。えー、どうされたんで?