#164:双生な(あるいは、双子と双子)
「ムロト選手……平常心乖離率142%、よってランダムクラッシュ発動します」
覚悟はしていたものの、やはりミリィ嬢の正体を知ったことにより、僕は少なからずショックを受けたようであって。
非情のリアちゃんの言葉と共に、ディスプレイ上に<ムロト:胴二部:クラッシュ>の文字が。と同時に、右胸に痛烈な打撃なんだが電撃なんだがよく判別できない衝撃が襲う。
「ぐぅぅぅっ!!」
一撃での破壊……説明されていた通りだったけど、やはり実感として食らうと相当なもんだ。右胸は殴られたかのような痛みでじんじんするし、その背中側から後方の竜の像へと伸びて僕の体を支えてくれていたワイヤーもプロテクターと同時に吹っ飛んだようだ。体の右側がやや前方に向かって落ち込んでいく感覚を僕は感じる。
「……!!」
立て、なお、さないと……荒くなった息を冷ますため、僕はしばし呼吸を整えることに意識を集中させる。しかし、
「岬よぉ、母ちゃん元気かぁ?」
にやついた笑みをその美少女面に貼り付けたまま、そうミリィ……翼が問いかけてくること、それ自体に強烈な違和感を感じさせられた僕は、またまた平常心を揺さぶられてしまうわけで。
<ムロト:平常心乖離率:87%>
その表示を何とか横目で確認した僕は、このまま連鎖的にクラッシュを食らい続けることだけは避けなきゃと思い、目の前の現実に向き合い、飲み込もうと心を決める。
翼がこの「溜王戦」に出場してきたのは、おそらく偶然だ。僕とこうしてこの場で出会うことも、想定外の事だったとも思う。でも何で。何で翼がここにこうしているんだ。姿かたちを変えて。
「……整形……したんだろ? 何でだよ……?」
呻くようにそう問いかけることしか出来ない。
「お前もしてんじゃねえのか? えらく可愛らしい顔になってよお。俺の知ってる岬は、もっとのっぺり顔で、これといって特徴ねえ面構えだった記憶あんぜ?」
翼が鼻を鳴らして嘲笑する。ああそうだ。こんな顔つき、いつも僕に対してしていたな……今となっちゃあ、懐かしさすら感じるよ。負けるか。ここで一発かまさないと……しかし、
「……僕のこれはメイクだ。お、お前のは……そこの金髪と顔がまったく同じじゃあないか……」
駄目だ。僕は気圧されている。声が上ずってしまうよ。それほどまでに不気味に同じなんだ、ミリィとタリィ、双子というよりも同一というか……
「まあ昨今の技術は大したもんだよな。性別を超えて、愛する者と同じ顔にしてくれたんだからよお」
愛する……者!? それは……そこの金髪のタリィのことなのか? 相変わらずの無表情であらぬ方向を見ているその少女を僕は見やる。
色だけが異なるけど、やはり同じ顔だ。でもやっぱり疑問。愛する人と同じ顔にする意味・理由が僕には理解不能なわけで。すると、翼が僕の困惑を察したかのように口を開く。
「……もともとこのリタには、双子の姉がいた。リミって名前の一卵性のきょうだいがな」
もう僕はよくわからなくなって来ていた。リミ? リタ?