#157:間隙な(あるいは、隙間三行)
「それではピリオド1っ!! 対局者の皆様、『デュエリック・カード』、セットオンっ!!」
リアちゃんに促されるがまま、僕らはいきなり各々出すカードの選択を迫られる。どうすれば……!? とりあえず僕は<3:胴:攻撃800/防御300>という、極めて平均的な、中庸なやつを出して様子見という選択肢を選んだ。
うーん、普通。それでもって「攻撃」か「防御」か? に関しては「防御」を選択と。……無難すぎて相手に読まれるんじゃないかと不安になるくらいだけど、いや、裏の裏をかくという意味では最善の一手っ……と思うことにする。
今回、作戦タイムも無かったもので、チームメイトの意向はわからない。まあ前の対局も、あまりこの出し手の通しのような事は活用されなかったし、問題ないよね。僕は、右手に握った把手の中指部分にあるという<3>を指定するボタンを手探りで探し当て、押し込む。長押しが「防御」とのことだったので、ぐいと力を込めて。
<全対局者:選択完了>
バックスタンドの巨大ディスプレイにそう表示されると共に、画面が6つに分割され、各々の対局者の名前と、その下に選択したカードの情報が表示されていく。
<ミリィ :胴:攻撃1200/防御100>→【攻撃】
<ハカゼイン:胴:攻撃1000/防御200>→【攻撃】
<タリィ :胴:攻撃 800/防御200>→【防御】
<アオナギ :胴:攻撃 900/防御200>→【攻撃】
<ムロト :胴:攻撃 800/防御300>→【防御】
<トウドウ :胴:攻撃1300/防御100>→【攻撃】
全員「胴」ということは……やはり総数は多いのだろう。それプラスまずは皆さん様子見のようだ。カードの数値的にも似たり寄ったりとなっている。
<攻撃順・1:アオナギ →2:ハカゼイン →3:ミリィ →4:トウドウ>
攻撃数値の少ない順に、攻撃する順番が決まると言っていた。その通りの順序が示される。初っ端はアオナギ。まずは攻撃対象の指名だけど、どう出る?
<1st:アオナギ:指名>
ディスプレイ上に表示されたその指示を待たずに、
「……指名、葉風院」
アオナギは不敵な笑みを見せつつ、敵のボス級を狙う意思表示をした。それを受ける側となった葉風院の方も口角つり上げの余裕の笑みを浮かべている。いよいよ始まるっ……!
<1st指名者:アオナギ:着手>
ピッという電子音が鳴ると、表示が変わった。と同時にその横の「20」というデジタル数字がカウントダウンを始める。着手時間は20秒ということだろう。そこらへんはもう推して知れというような事になっているんですね。説明を求むッ!!
「……ガキの頃、エロ本の捨て場所に困って、二階の自分の部屋から、隣の家との壁の隙間に、投げ捨ててたんだけど、ある時それを見つけた小学生のデブが、壁と壁の間に挟まって抜けられなくなった挙句、消防隊出動になって、無事救助されたものの、俺の性癖も白日の下に晒されたっていう……ほろ苦い青春話」
……いい話じゃない時の貴方は、ほんとダメですね! ……いやダメ人間コンテストだからいいんですけど!
<アオナギ:55,223pt>
10万点満点はやっぱり分かりやすいよね、55点の出来ってことだ。まあ、僕から見てもそれ以上でもそれ以下でもないように感じた。ナイスジャッジ、観客のみなさん。
相手……葉風院はこれを受けてどう来るのだろう? 未だ笑みを絶やさないその自信に溢れた表情を真正面に受け止めながら、僕はその歌姫の実力を次の瞬間、思い知らされることになるのであった。