#150:白金な(あるいは、ラストボスとはあまり言わない)
「そしてさ〜いごにっ、はいっ、さーいごにっ、はいっ、ひ〜か〜え〜しは? はいはい! あ、ひ〜か〜え〜し〜わ? わ? わわわわわわわわ?」
突然、会場にえらいハスキーな女性の声が響き渡る。実況少女のじゃ無い。何たる声量……場の喧騒を全て飲み込むくらいのレベルの大音声。その何か引き込まれる、歌うような声の主が壇上に現れた途端、会場のボルテージが一気に上がったように感じられた。
「わーたーくーしっ、わたくしわたくしわたくしわたくしっ、は・か・ぜ・い・んっ!! カモナぁぁぁぁっ!!」
スポットライトを全方位に向けてはね返す煌びやかなロングドレスを纏った、大柄な女性? が、これも光沢のある肘までの手袋に包まれた両手を空に向け、雨乞いをするかのように掲げて登場した。何これ何これ何これ何これ。
「ゆーあー、しるばー、ゆーあー、ごーるど。ソォゥ? あいあむ、ぱーふぇくとっ!! ぱあ、ふぇくと、おぅ、ぷ・ら・ち・なむっ・ふぅぅぅ!!」
しばらく両手を振るような振り付けをしていたその大柄女性だったが、「ふぅぅぅ」の所で思い切り両手を下に押し出すようにすると、全身をぴんと張ったポーズで締めくくったようだ。よく見ると金属の鱗のようなものがそのドレスの表面を被っているが、金色というよりは銀に近い、プラチナと言えなくもない光沢感を放っている。
まあそこはいちばんどうでもいいところであって、突っ込む箇所はどこだ?
「……みんなぁぁぁ、ぬううぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉってぇぇぇぇるかぁぁぁぁぁい!!」
と、僕の逡巡を完全に置き去り、その大柄白金女性は、手にしていたマイクを口許にすっと持っていくと、切れ長の目を閉じ、凄まじい低音から駆け上がるようにして3オクターブくらい上の高音まで持っていった。うおおおおお、という会場の大歓声がそれに被さっていく。すごい。
「……」
漆黒の髪をアップに盛り、そこにも眩く光るアクセサリーらしきものが散りばめられている。どこか妖しさを宿した瞳は、マスカラやアイシャドーでこれでもかと強力な目力を発する装飾を施され、耳にはこれまた目を奪う何カラットだっていうくらいのルビーと思われる真っ赤な宝石がちらちら瞬いている。唇には黒に近いほどのどぎついルージュが引かれ、きゅっと口角を上げた形で固定されているかのようだ。
その表情は何かに挑むかのような、好戦的な雰囲気を宿しているものの、物凄い艷やかさも強力に拡散している。
「……」
外観・歌声・その中身と、三拍子揃った迫力を持った、最狂の歌姫、葉風院ミコトの光臨なのであった。え、でもこのラスボスをもう持ってきちゃっていいの感が、僕の頭の中を駆け巡るわけで。
それにしても両隣の金銀の二人との温度差がすごいな! 竜巻起こるんじゃぁ……と、会場の雰囲気においてけぼりの僕はそんな事を考えるしか出来なくなっている。




