#148:偵察な(あるいは、粘土か土器か陶物)
「待った! ここで揉めるのはやめましょうよ。そうです、僕が室戸ミサキですけど、何でしょうか?」
ジョリーさんの顔が怒りで赤黒くなりつつあるのを察して、僕は慌ててそこに割って入っていった。こんな所で乱闘を起こされでもしたら事だ。
「『僕が室戸ミサキ』?」
銀髪が少し怪訝そうな顔をした。何だ?
「ええ、そう、ですけど……」
人違い? いや、この会場に同姓同名がいるとは思えないし、まず日本中探してもいないだろ。本家が高知県の突端にあるだけで。
「……」
銀髪はまじまじと僕の顔を見てきた。一方の金髪の方は無表情のままで、あらぬ方向を見ていて何も興味はなさそうだけど。僕も何かこっちの銀髪の方にだけ、えも言えない違和感を感じ続けている。
「へえ」
直視されていた僕だが、急に銀髪は気の抜けた声を発すると、一瞬にやりとした表情を見せて身を翻した。そしてまた仲良く金髪と連れ添ってグラウンドの方へと去っていく。な、何だったんだ、いったい。
「大丈夫ですか?」
ジョリーさんは、顎の辺りを揉みながら怪訝そうな顔つきだ。
「あの小娘、えっらい握力だったわよぉん。何かやってるわね、あれは」
格闘技とか護身術の類いなのでしょうか。僕と同じくらい細い体つきで、身長もほぼ変わらなかった感じでしたが。でも見た目じゃわからないって事はここ数日で嫌と言うほど味わわされたし、ね。
「気をつけてねぇん、あの銀色の方、ムロっちゃんに敵意剥き出しって感じだったわよぉん」
やはり……そう感じましたか。僕も薄々はそう思っていました。でも何で。おそらく初対面だと思うし、でも僕を名指しだったよな……しかし僕を見た目じゃわからなかったみたいだし……僕の思考は混乱を極める。
それに、片方だけからって。あ、も、もちろん双子に告白云々はあの金銀にしたわけじゃないですよ。仮にそうだとしたら両方から蔑まれるだろうし、名前は知ってるだろうし。うーん、謎だ。それはとりあえず置いておこう。頭と体を休めるのがまず重要だよね。メイド服のスカートをだらしなくはだけたまま寝息を立てている二人に、僕も従うことにした。
「……ムロっちゃん、そろそろ起きて。対局始まるわよぉん」
すとんとオチていたようだ。ジョリーさんに肩を揺さぶられて起こされた。一時間弱くらい、まどろんでいたそうだ。結構疲れていたんだね。
「2組2位と3組優勝組の対局は、2組2位が順当に勝ったわよぉん。次にジュン坊のチームと当たると。ま、全然心配はしてないけどぉ」
別ブロックの対局は既に終わっていた。外野側を見やると、何やら物々しい雰囲気の舞台装置のようなものが撤去されつつある。次が決勝5試合目。僕らのチームと、1組5位の、あの金銀姉妹のチームとの戦いが遂に始まるわけで。