#147:歌姫な(あるいは、お初でごんす異星人さん)
「ジョリさんよぉ、ミリタリのとこはあと一人誰が入るんだ? 元老は元老だろうけどよ」
アオナギがぐびぐびと音を鳴らしながら問う。ミリタリシスターズっていうのはあの金銀双子の二人組なわけね。だとしたらもう一人、チームには必要と。そこは確定してないんですね。流動的というか。
「葉風院だったわ。葉風院ミコト」
ジョリーさんが告げた名前……それも聞き覚えあるな。えーと、確か……
「葉風院ミコトは……ダメをポジティブなものとしてキャッチーな歌に乗せた『D-ポップ』のカリスマとして幾多の信者を有するディーヴァ……だぜぃ?」
丸男はもう飲み干したのか? 缶をくしゃりと潰すと、脳内にコピペされたかのような説明を棒読みがちに言ってきた。そうか、それも超初期にアイドル化云々のくだりで聞いていたような気がする。
あちこちに投げた紙テープを必死で巻き取って回収しようとしている人影が、なぜか僕の頭をよぎるが気にしないことにした。
「厄介な相手よねぇん。まあ厄介じゃない相手がいるのかと言われたら……いないんだけどねぇん」
まあね。各々、厄介のベクトルがこれでもかというくらいにひん曲がっているしね。
「ま、あと小一時間ばかりは空くだろう。今の内に英気を養っておくことをおすすめするぜ」
アオナギはそう言うやいなや、椅子から崩れ落ちるように、人工芝が敷かれた地べたに寝転んでいった。この人も何だかんだで疲弊しているのだろう。例のむちうちの事もあり、少し休ませた方がいいよね。丸男はと見ると、既に大の字だった。僕も少し仮眠でも……と思って地べたに横たわろうとしたらうわあっ!!
「……」
テントのすぐ外。ふたつの人影。中を覗き込んできたのは、何と、先ほどの金銀双子だった。えー、尾けられてた? 先ほどのようにお互いの体に手を回し、支え合っているかのように佇んでいる。スタンドからの逆光でその顔は陰になっていて、金と銀の眼だけが猫の目のように光っていた。い、いつの間に……というか無表情でこちらを伺われても。
「アナタは……ムロトミサキ?」
銀髪の方がそう口を開いたが、その声は何かエフェクトを掛けられたような……昔風のロボットが出す金属音バリバリ、みたいな声ではないけれど、何か人工的じみた、不自然な音声だった。よくよく見ると、その首に回されているチョーカーのような物から声が響いたようにも思える。い、今のロボット技術ってバカにならないもんね……人工知能が人間を打ち負かす時代ですしね……
「コタえて? ムロトミサキなの?」
表情を変えないまま、銀髪が再びその謎音声で問いかけてくる。怖いよ……。
「ちょぉっとぉぉぉぉ、何なのよ、ムロっちゃんに用? ていうかアンタら次の対局相手でしょーが、スパイしに来たなら帰ってちょうだい」
ジョリーさんがその少女らの所まで出て行って、しっしっと猫を追い払うかのような仕草をするが、逆に銀髪の伸ばした手に、その長い顔面をむんずと掴まれて横にどかされてしまう。オブフ、みたいな声がジョリーさんの口から漏れる。結構な腕力だ。もしかして既にサイボーグ?