#144:静寂な(あるいは、紡ぐ言葉)
「……そのうちに貴様のことをずっと追いかけていた。その全対局、全DEPを。何なんだ、その清々しさは。たかがダメ人間のたわ言じゃないのか? 主流と呼ばれるクソみたいな流行とは全く違うところにあって、徐々に支持が受けられなくなって、ずるずると下位へと滑り落ちていっても、貴様は変わらなかった。その信念、変わらないスタンス、そして何より自由にダメの海を泳ぐその様。その全てが羨ましかった。眩しかった。憧れていた。嫉妬していた」
タメイドは今や泣き出しそうな顔で言葉を紡いでいる。周りの観衆は、もはやどよめきすらしていなかった。静寂。静まり返った空気の中を、タメイドの言葉だけが漂う。
「仙台まで追いかけていったのは、箔をつけたいとか、そんなしょうもない理由じゃあなかったんだ! 貴様と相まみえたい、それだけだった。貴様と共に、溜王を戦いたいとも、そうも思っていたんだ!」
タメイドはそこで感情の昂りを放射するかのように、拳をバーへと叩きつけた。
「だが……貴様の目に、私は映ってはいなかった。内心の落胆をひた隠し、貴様との対局に僅差で勝っても、私の心は澱んだままで……知ったのは、室戸ミサキ、お前の存在だけだった」
!! ……僕に来た。タメイド……そこまでの感情を僕に対して秘めていたんですね。知らなかった。
「……セレナに突っ込んだのは私の運転するボルボだ。訴えたければ訴えろ。もう私は疲れた。ダメにすら、もう疲労しか感じない。どの道これが最後と思っていた。全ては徒労だ。この世の全ては……人生は、徒労でしかないんだよ。そんな物に、やっきになって空回って、何がある? 何が残る? 過ぎ去るだけさ。過ぎ去るだけの空虚な時間なんだよ」
タメイドは、最後はそう呟くように言葉を発すると、力無く前へとうずくまっていく。
「……やっぱり。やっぱりだ」
再び静寂が支配しそうになる場に放たれたのは、アオナギの自然体な声だった。
「お前さんは何もわかっちゃいねえ。何ひとつわかっちゃあいねえんだ」
鼻からひとつ息をつき、メイド服に歌舞伎顔、そして首にはコルセットと、異形にしか見えないそのアオナギという男は、うつむいたままのタメイドに向き合いそう言い放つ。
「……何もしねえ人生が空虚なだけだ。何も残せねえで、あがいた挙句、徒労に終わるかも知れねえ。それを空虚と思うかも知れねえ。だがそこでやめてしまったら、そこまで。人生はクソになっちまう」
アオナギは静寂の中にひとつひとつ、言葉を紡ぎ出していく。