#142:同族な(あるいは、静と動)
<PERIOD3:
1st:タメイド
2nd:トウドウ
3rd:ムロト >
指名権抽選結果がディスプレイに表示される。注目はタメイドがどう来るか。アオナギの見え見えの挑発に乗っての直対を受けるのか、そしてそれを受けてのアオナギに勝算は果たしてあるのか。あるいは全く違う場になるのだろうか。
「……指名する。アオナギ七段……私は貴様を乗り越えていく。金も名誉も全て手に入れてなあっ」
タメイドは先ほどから血走った目を、右隣のレーンにいるアオナギに向けたままだ。そしてその物言いもだんだん生臭いものへと変わっていっている気がする。でもこれダメ人間のですよ? 名誉は……あるのかな。とにかく指名は決まった。
「タメイド新四段。お前さんは何もわかっちゃいねえ」
そんな形相の変わっている相手に対し、アオナギはあくまで自然体だ。自然にぽんと言葉を投げかけている。
「何……だと?」
口許を歪ませるタメイドだが、アオナギは右手をぷらぷらとさせながら軽くいなすと、言葉を継いでいく。
「……金や名誉なんつーものは二の次の事よ。そんなのに囚われているうちは、正道とは言えねえ、邪道も邪道、大邪道」
うわー、自分たちは金、金言ってて、僕も金で釣っておいて何たる言い草か(釣られる僕も僕だが)。でも嘘発見機は作動しないということは、本心ではそう思っているということなのだろうか……僕はもうこのアオナギという人がわからなくなっている。稀代のはったり師か、それとも恐ろしく底の深い妖怪じみた何物かなのか。
「……貴様に道を説かれる筋合いはないっ……! 私こそが正道。それを忘れるなと……言ったはずだ」
絞り出すようにしてタメイドが言う。その顔はもう、怒りの隈取りをしたアオナギといい勝負の赤黒さだ。というか着手まだなのかな? 雰囲気に押されてさすがの桜田さんもこのやり取りを見守るだけだけど。
「……どこかで道を違えたんだろうなあ、お前さんは。いろいろ背負ってきたり、呑み込んできたりした物はあるんだろうが、それを周りの人間とか世間とかに、怒りを持ってぶつけている内は二流よ。二流のダメ人間に過ぎねえ」
飄々とした口調で、そしてバーに寄っかかっての力の抜けた感じでアオナギはそう諭すかのように述べる。いつの間にか、会場の観衆たちも静まってきていた。
「ククク、下り坂の七段風情が随分と吠えてくれますねぇ。ええ? お前なんかに何がわかると言うんだ?」
タメイドのその立ち居振る舞いは、徐々にえも言えない迫力を滲ませてきている。その本性なのか、荒々しい気性が垣間見えてきているよ。タメイド……この男も、やはり似ている。外見はモテそうな優男だけど、内には、社会に受け入れられないマイノリティーのマグマのような激情を秘めている。僕らと……同じなんだ。