#014:空虚な(あるいは、簡単じゃないか)
「『アイドル』とはその……あの車とかでエンジンを……」
僕の言葉を遮り、
「いや?」
「古代の偶像崇拝に代表される……」
「いや、いわゆる『アイドル』だ。世間一般的に意味するところのな」
僕の言葉を遮り、アオナギが言う。ですよね。でもダメとそれが僕の頭の中ではうまく結びつかない。
「……ダメ業界に『萌え』の概念を持ち込んだ先駆者『初摩アヤ』。ダメをポジティブなものとしてキャッチーな歌に乗せた『D-ポップ』のカリスマとして幾多の信者を有するディーヴァ『葉風院ミコト』。『ドジっ娘』から半歩ダメに踏み込んだ絶妙の『合法ダメロリ』を標榜する『お兄ちゃん系』最大派閥『C-ブランド』など、今やダメ界はそいつらの色に染められていると言って過言じゃねえ」
いっぱい色んなのが出てきたけど、ふーんふーんとしか言えんわー。
「やつらの大衆に媚びるやり口……俺っちにはどうとも許せねえんでげすぜ」
左隣の丸男はまた一点を見つめて怒りに体を震わせている。今日も顔面一帯が赤黒い。
「しかし無視できないのも現状。特に溜王戦は一発トーナメントだ。少年の実力が外面だけでうまく評価されず、沈んじまったら目も当てられねえ」
外見に自信がないのは確かだけど、何かもうダメから遠ざかっていってませんか?本質に戻らないと。
「そこで現状を逆手に取り、俺らもアイドル路線で討って出る」
本質ー!! アオナギはくっくと笑みを浮かべるとグラスに手を伸ばした。
「いやいやいや、かけ離れてますよね? ジャニーズとかそういう要素、カケラも無いですって」
無駄とは思いつつ反論をしてみる。当の僕はのっぺりとして、薄ぼんやりとした特徴のない顔だ。とてもじゃないけど……
「盛るのさ」
またも僕の発言を手のひらでいなすと、アオナギはそう言い放った。
「盛って盛って、強烈なインパクトを初見にてぶちかます。『ファーストインパクト:ミサキちゃん計画』、ここに発動を宣言する」
アオナギの支離滅裂な宣言に、丸男だけが両腕を振り上げて、うぉぉぉとか言ってるけど、いやいやいや、混沌じゃないか、これ。