#126:逆転な(あるいは、キング・マッド・プレジャー)
「ルールは複雑っ!! なるべく噛み砕くからみんなついて来てくれーっ!!」
桜田さんはいちいちオーディエンスを煽るなぁ。と、黒服の男たちに両脇を抱えられながら、痩せぎすな若者が舞台の方へと引きずり出されてきた。その顔面は恐怖で引きつり、ひいっひいっというような声だか呼吸だかを上げている。
「皆の者よく聞けっ!! この者は先ほどの対局で虚偽のDEPを放った……!! 言ったはずだ、ここではそういった行為は禁じているとっ……!」
黒服はそう声を張り上げると、その痩せたチェックのシャツの男を、先ほどから気になっていた「枠」状の装置のひとつへと無理やり引っ張っていく。これデモンストレーションだろうか。しかも何となく罰っぽいやつの。
「……この反則者を使って説明することとする。さてっ! 対局するチーム3人は全員、そこの『スクエニック・ハーフナーパイプ』に搭乗していただくっ! 座席にしっかりと腰掛け、シートベルトで体を固定したら準備完了だ!」
桜田さんもその何とかという直方体に組まれた金属製パイプのもとへ向かう。痩せ男は乱暴にその装置の黒い座席に座らされると、肩や腹にベルトを回されたのはともかく、脚も対角線上に張られたパイプに膝とか足首など何カ所かベルトで拘束されてしまった。姿勢的には中腰といったところだろうか。微妙な態勢だ。
「一手一手ごとに先手ないし後手に勝敗がつくのはこれまでと同じだ。だが、今回は放つDEPに『属性』が付与されるところが異なるっ!! 『属性』すなわち『グー』『チョキ』『パー』だっ!!」
観衆はうおおおおんと盛り上がるが、さっぱり見えてこないぞ?
「通常のジャンケンと同じく、この『グー』『チョキ』『パー』の属性は慣れ親しんだそのままと考えてもらっていい!! すなわち『グー』は『チョキ』に対し有利、以下同文だっ!!」
それは分かる。でも「有利」って、どう「有利」なの?
「あ、あの……」
その点が気になるので思わず手を上げて質問しようとしたところ、
「意義ありっ!!」
桜田さんにいきなりそう指を突きつけられた。あ、ああー、それね。それは流石にわかりにくかったかな……せめて青スーツなら……いやいや桜田さん的には自分のイメージカラーの赤は譲れなかったのか、はたまた赤も再評価されてるからとか……いかんいかん、またしても僕の思考は霧の中に入ろうとしてしまう。対局に集中。それが大事。
「有意義な質問だ、ムロト。例えば相手の『グー』に対し、自分が『パー』を出したとする。その場合、自分のDEPの評価が『1.5倍』の補正を受けることが出来る。つまり、DEPの評点で負けたとしても、ジャンケンで勝っていれば、それを覆せる可能性が出てくるというわけだ」
何となく分かってきたぞ。ジャンケン……つまり結構運任せなところ、ランダムな要素も含まれるということか……?
いや、そうじゃない。「限DEP」という名前……限られている何かがあるということだ。それは多分……出せる手のことか、撃てるDEPかということになるけど、どうなんだろう?