#122:元鞘な(あるいは、ひらけペイン)
「まあ、勝ったから良しよぉぉん。ムロっちゃんのあの能力は未だ謎、で終わったけどねぇん」
いかにも高そうな木箱入りの瓶入りゼリー(フルーツがぎっちり詰まってる)を差し入れで持って来てくれたジョリーさんも招き、僕らはアオナギのベッド横に各々腰掛けた。
「まあ……それはそれで良かったのかも、ですけどね……」
心にも無いことを言うと口角がひきつる僕だが、内心の口惜しさをひた隠し、まるまる入った白桃を頬張る。うん、完治した喉にひんやりと素晴らしい喉ごしだ。次戦こそはまっとうにやろう、とそう思うけど、
「……次の相手は、為井戸率いるまたもや元老院の奴らよぉん」
ジョリーさんがスマホを操作しつつ、そう苦々しげに言う。為井戸ユズル「新」四段。仙台で僕らに対局をふっかけてきて、返り討ちに遭って10万円をぶんどられた、あのタメイドだ。
「タメイドが元老院とつながっている……まあありえそうな話だけどな、野郎は上の者に取り入るのがうまそうだし」
アオナギは開き直ったか、突如目覚めたフリをしてからは、ベッドに身体を起こして会話に加わっている。右腕に痺れがあってうまく物を握れないとのことなので、カワミナミさんにゼリーを口まで運んでもらってはいるけど。
「……どの道、痛い目に会わせてやろうと思っていた奴だ。直対望むところだぜ」
アオナギはあの事故の差し金がタメイドと考えている……? まあ最も怪しい存在ではあるけど。
「少年」
と、アオナギにいきなり呼びかけられ、僕はえっ、とゼリーに集中していた意識を向けるが、
「……お前さんはいいのか? 俺らと一緒にいるとことか見られても」
その視線はカワミナミさんに向かっていた。あなたは大体の相手に「少年」と呼びかけてるな?
「もういい。元老院とは昨日の時点で袂を分かったからな。彼らのやり方にはほとほと愛想が尽きた。そしてこれからどんな妨害を受けようと、この溜王戦だけは戦い抜く、そう決めた」
決然と言い放つカワミナミさん。目線を外し、口許だけでにやりとしてみせるアオナギ。そうか、カワミナミさんも元老院なのか。いや「だったのか」と言った方がいいのか?
「クソ元老どもも、今頃焦ってやがるだろうなあ。主力が土壇場でいなくなるっつーのは」
「隠していたことは本意ではなかったと弁明させてくれ、少年。元老院には色々借りがあってな。組織に絡め取られていたところは事実ではある。しかし、その一方でそれをぶっ壊してくれる存在を望んでいたのもまた正直なところだ。それが……少年、君だと昨日の対局で確信した」
重々しくカワミナミさんはそう言うが、僕はあの能力を失ってしまったんですよ?ハーレムを統べる王としての資質を失ってしまったんですよ?
「……あれには笑わせてもらった。よくもまあ、それだけ引き出しがあるものだと。しかしあれが君の本質ではない。いや、一部でしかない。それはアオナギも分かっていることだろうが」
軽く鼻から息を抜いて笑って見せると、カワミナミさんはベッドのアオナギを振り返る。アオナギは相変わらずのくっく笑いをするだけだけど。




