#113:逡巡な(あるいは、ガチになりまぅす)
アオナギの容態は気になる。けど、今はここで僕がやれることをやるまでだ。何だか自分が急速に吹っ切れ始めたのを冷えた頭が感じ取る。喉に少しの違和感は残っているけど、声が出せるなら、DEPは撃てる。
「……」
僕を取り囲み、余裕の笑みで睥睨してくる見た目は可愛らしい三人の女のコ。だが元老院を張るだけの、結構な女狐ちゃん達だってことはもう割れてんぞ! 容赦なしでブッ込んでやるぅぅぅぅ。
「……第3手は、失格が二人出ましたので、その二人は着手無しと判断させていただきまーす」
少し空回り気味の気合いを秘めた僕を置いて、セイナちゃんはさくさくと進行していく。
「よって親のリポ=ッニ選手は不戦勝。ムロト選手だけ〜1UP!!」
ぐっ。さっきの沈黙=0ptがカウントされるのか。一瞬後、体に軽い衝撃を感じたと思ったら、思っていたよりじりじりとした動きで、僕の座るスライドが角度を上げていった。両手でしっかりと縁を掴む。まだ手の力だけで体が滑り落ちるのは止められるレベルだ。
一方ではしかし、僕以外の三人娘は初期位置のまま。そして3対1と。不利だ。パスの状況はバックスタンドのディスプレイに表示されているので明白だが、カオちゃんが3回で打ち止め、それ以外のメゴ、リポ、僕が2回づつ。僕にとって有利と思える要素は残念ながらほぼ無いと言っていい。そして何者かに操作されてるだろう親番の権利は、僕には永遠に回ってこないと見た。
ぬおおお、それでも負けてなるものかぁぁぁ。
「それではそれではっ、第4手目始めますっ!! 親番っ! 出てこいやぁっ!!」
六芒星ルーレットも今や欠員部分が暗くなって凧のような形に。回転が徐々に止ま……る!
<親番:チマチ=カオ>
ですよねー。僕に来るわけない。メゴ→リポ→僕→カオの着手順となった。
「お題っ! ダメ転じて福となった黄金体験っ!」
またもやたっぷりの顔芸を絡めてそう告げてくるカオちゃん。いやでもそのお題は結構難しい。まず、ダメがいい方向に転んだ経験がないわけで。すると、
「……こっからはガチでいくかんね」
一番手のメゴちゃんがリポ・カオを悪戯っぽく見つめながらそう言う。うん、僕は蚊帳の外だー。
「『追っかけてた野球部のセンパイに思いっきりファウルボール右目に当てられたけどー、それが縁で付き合っちゃったっ』、てへっ」
てへじゃないと思う。避けれたんだろうけど避けなかったんだろうね、右目に当たるのって相当顔差し出してないと無理よ?よっぽどその先輩とのきっかけを作りたかったか……このダメの為のDEP作りだったのか?どっちだとしてもその執念恐ろしいよ。
<メゴ=マコ:23,908点>
そしてかなりの評点。ガチだ。ガチで来ているよ。待てよ。他の二人もガチで来るとしたら……? 僕はどこかでパスという同士討ちを誘う選択肢を一回だけ使用出来る権利がある。今の問題はこの局面でそれをするかどうかだけど……どうする?