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父からの贈り物1部(2部完結)  作者: ともピアノ
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父からの贈り物(3部完結)

走る走る走れ。高々と鳴るファンファーレ、大歓声が、こだましている。観客の盛り上がりが、最高長をむかえる。

それぞれの、応援は、それぞれのゼッケンに思いを乗せている。スタートダッシュのタイミングを計る選手、両手を胸の前に組んで腰を左右に回して柔軟に取り組む選手、太ももを交互にリズミカルに上げる動作を繰り返す選手。


刻々と、スタートの瞬間がせまって来ます。選手が、白線に横に並びました。胸には県内で予選を通過した中学校の紋章と選手名が、旋風に、時折あおられている。高新記録が出そうな期待と不安を感じさせる。


「真衣ー、行けー、スタートに気をつけろ」

「舞、画面に近づき、頭で、見えないよ」

「は〜い、よけよけ」

「本当だったら舞が、この場所にいたはずだのにね」

「お母さん、もういいのー、よけよけ」

「もうー、テレビ消すよ、消して」


風が追い駆けている、応援してる、走る景色の手は呼び会いニコニコ顔で繋がる。「8、7、6階、5、4、3、2、1階ー、行くぞ〜」、エレベーターが、地上に着くと、舞は、走り出した。団地の渡通路を1個、2、3、4個と抜けるとジャンプ、駐車場広場を抜け、右に曲がり20m先の団地内5m小池の橋を渡り、公園内の滑り台とブランコの間を抜け。

「舞ー、危ないよ、舞ー、」

貴子が、舞を追っかけながら呼んでいる。


団地前2車線の通りに園の通学バスが止まっている。


「真衣ー、ちゃんと荷物は持った、お母さんは行けないけど、挨拶をしないと駄目だよ。」

「うん・・・行ってらっしゃい。」

バスの乗車口で、乗り込んで奥に向かう真衣にお母さんが、話しかけている。


「まっい、ん〜、お母さん呼んだ」

「呼んでないよ」

バスの運転手席近くの席から、舞が、窓から外のお母さんに、行ってくると、手を振っていた。

「まっい、」

舞は、バス内を振り返って、見回した。

「先生、運転手さん、おはようごさいます。」


園に通学バスが着いて、降車口から、20人程の、男女の園児たちが降りて着て、女性の先生に連なって2列で、教室へ向かっていた。


「皆さんおはようごさいます。先生の名前は・・・、此れから、お名前を呼びますので、元気に手を挙げて返事して下さい。・・・さん、松嶋真衣さん」

「はい、は、い」

「松嶋〜真衣さんですよ」

先生が、舞の座っている方を見て、呼びかけている。

「あっ、そうか」

舞が、当たりを見回す、席の1番後ろ角の席で手を、小さく挙げている女の子がいる。

「ねえー、あなた、ま、い。私も舞、宜しくねー」

1番前の先生の手前の席から、舞が、頭の上で大きく手を振っている。

「松山舞さん」

「はーい、真衣ちゃん、私も舞でーす。一緒だね、へほ」



「真衣ちゃん、走るの好き〜」

「わからない」

「走るとね〜風が、歌うんだ、下手だけどね」

「ん〜歌、」

「そう、舞がね、走るとね〜、曲がるとね〜、リズムが」

「リズム〜・・・」

「こうやって、手のひらをお空に向けて叩くの」

園内のブランコに、乗りながら話し合っている。

舞が、両手を顔の前まで挙げて、園で歌の会に教わった左右に行ったり来たりしながらの振りをして、適当なタイミングで、手を叩いている。

「できる〜、楽しい〜、舞走る〜」

「走る〜、走る〜、走る〜」

2人して、園広場内を横になって左右に広がったり縮まったりして、風と歌い会い走っていた。

「舞ー、舞ー、帰るよー」

貴子が、舞を迎えに来てた。

「真衣ちゃん、またねー、走る〜」



教室裏の運動場の手前に、3つの職員、審査員テント、半楕円形を描く様に手前から奥まで敷き詰められた各々の親御さん達の昼食時模様、園の運動会も、午前中の、ひよこのよちよち歩きに、お手て繋いで元気なお歌、紅白玉入れどっちだ、の競技に演舞が、終え休憩の曲が流れていた。


「皆さーん、この後午後2時から、男女の50mの競技が、あります。先生の指示に従って、安全に注意して、元気に、走って、楽しみましょう。この競技が、園の運動会最後の種目に成ります。競技終了後は、身の廻りの整理整頓をお願いします。それでは、後少し、運動会を楽しみましょう。お忙しい中、御両親、親戚、近隣の方々、沢山の園への来場ありがとうございました。」



「真衣ちゃん、一緒に走りたかったね」

「舞ちゃん、速いもん、終わりの男子と走るんでしょ。

「舞が、先生にお願いしたよ、先生も、舞ちゃん速いから〜、女子達とじゃ〜って言っていた。」

「一緒に走りたかったよ〜」

「練習したもんね、舞ちゃん坂、好きだから、大変だったよ」


「真衣ちゃん、ごめん、舞と走れる・・・紅白玉入れどっちだの時に転んじゃった子が、走れないの、頑張ってみる〜」

「先生、真衣、舞ちゃんと走りたい、ありがとうね」



「舞ちゃんー、一緒に走れるよ、先生が・・・」



舞の住む住宅団地の手前には、50m位の高台があり、その先の坂を降った計2kmの地点に舞の通う幼稚園がある。

その高台に向かう途中に、左手横に自転車で、立ち漕ぎで、登るには途中から、降りる事になる急な坂がある。

今、舞と真衣が、運動技姿でいる。


「舞ちゃん、此処、登るの」

坂は頂上まで、道の畝っている所が4箇所ある。300mはゆうにある。畝りの3箇所目辺りで、自転車の人は、降りらずにはいられない。

「20m」

舞は、唇を固く閉じて言う

「20m、後は何処まで」

「20mの後は、登らないで途中で、止めていいよ、疲れるよね〜」

「でも、20m、集中してね」

「集中ー・・・」

「うん、スタートの、よーいドンが鳴ったら、飛び出して20m集中、後は、そのまま走る風と歌って」



舞と真衣は、2人で、雨の日も、風の少し強い日も、良く走った。

最初は、団地の公園内にある砂場と一緒に設置された迷路のようにグルグル回るコンクリート型の滑り台の周りや、反対側にあるブランコ、真ん中を占領する大きな直径1mの緑陽樹の周りを鬼ごっこして。





男女50mの競技が、始まっている。

活気盛んな曲想が、流れてドンドン、横1列に園児達が名前を呼ばれて、よーい、ドンのスタートの合図と共に走り出して行く。

各々の、親御さん達の声援が、園児達の、元気な、返事に、心かき乱される。

競技の終わった園児達が、1、2、3の勝敗の旗を受け取って、隣のサークルに続々と列になって並び、残りの選手達の終了を待っている。


そして、舞と真衣の順番が回って来た。


舞と真衣は、両端に真ん中に男の子が、並ばれる。

「真衣ちゃん、20m集中」

「うん、20m集中ね」

位置についてよーい



「真衣ちゃん、あの木まで競走しよう」

「真衣、出来ないよー・・・」

よーいドンと、舞が、手を叩いてスタートする。


舞が、地面にスタートの線を引いた位置から木まで、30mある。

舞が、スタートする。その、5歩遅れて真衣は、スタートしていた。

ドンの音を聞いてから、走り出す真衣は、何度やっても、

舞を10m以上も先に背中を見てゴールする。


「真衣ちゃん、頑張れ」

先にゴールした舞が、声掛ける。

「舞ちゃん、速〜い、速〜い、ズドーン、ロケット花火見たい。」

「ロケット花火〜ひゅーん」

「止めようか」

「うん、舞ちゃんロケットだね〜」



舞は、静かに、していた。

歌っている。風が、呼んで、静かにしていた。

顔は、地面を見ると言うよりも地面と会話している。

口を開けるのではなく唇を小さく動かす。

風の歌が、感じれる景色を地面と肌との接触揺れを緊張、緩和する。

舞の、お下げの横髪が風を見つけた。



舞ちゃん何で、いつも、あんなに速いんだろう。

真衣が、お母さんと遊園地に遊びに来ている。

「ねえーねえー、お母さん、舞ちゃん、凄〜い足、速いんだよー」

「そう、凄いね」

「見た事ある、ズドーンって、ロケット花火見たい、真衣、いつも、後ろを遅れて走ってるの」

「でも、舞ちゃん、ん〜と、小さい頃から、走っているんだって、まだ、追い付けないかもねー・・・頑張って挑戦して見たら」

「ちょうせんっ」

「真衣が、舞ちゃんに、追い付くまで、ずっと頑張る事、・・・出来る〜」

「出来る、出来る、約束する、頑張る〜」



「あっ、真衣ー、見てー、風船飛んで来たよ〜」

「風船ー、あっ、あっ」


10m先で、女の子が泣いている。

「もう、諦めなさい、また、買いますから」

「赤い風船、赤い風船、ママー」


真衣は、我を忘れ、飛び出していた。

舞ちゃんなら、取れる、真衣は・・・

走りながら、考えと行動が交差する。

手を伸ばす、じゃない、其処じゃない。

風が来る、間に合わない、池に行ったら・・・

舞ならどうする。集中、集中。



「あーん、あーん、赤い風船、真衣の〜」

目の前を真衣より3倍位の高いお兄さんが、あっ、あっ、

あっ、あ〜ん、あ〜ん、赤い風船

「ありがとうお兄さん、カッコいい、ありがとう、赤い風船、此れ、真衣の赤い風船」



そうだ、真衣の赤い風船、そう、あの時、遊園地で、お兄さん、赤い風船、真衣の赤い風船を掴んだ。

どんなして、掴んだ、お兄さん。

覚えてる。見たもん、しっかりお兄さん、赤い風船、掴んだ。

風、風だ、真衣も、風を掴んだ。

バッシャン。

真衣は浅瀬の池に飛び込んで赤い風船を掴んで、転んでいた。



「お姉ちゃん、お姉ちゃん、わ〜ん」

「ありがとうございます」

「真衣、やったね」

「うん、ビショ、ビショ」



ドンの合図で、舞、真衣は、同時に飛び出した。



「舞ちゃん、はっ、はっ、疲れない坂」

「はっはっはっは、楽しいよ〜、真衣ちゃん、休む」

「ジョア、飲む、イチゴ」

舞が、手提げ袋から、汗を拭きながら取り出して渡す。

「うん、イチゴ美味しいねえー」

2人して、近くの階段に座って話している。


「集中、疲れるね」

「集中、楽しい、いっぱい歌える、今日は、終わりね」

「何で、そんなに、楽しいの、集中、20m」

「風が、歌っている、歌うの待っている、舞も、歌いたい、風と一緒に、待っている、そして、歌うのー、後は自由だー」



「舞ちゃん、ブランコ楽しいね〜」

「ブランコ楽しいね〜」

「舞ちゃんブランコ好きー」

「好き好きだよー」

「走るのより、走っている方が好きだよねー」

「真衣は、ブランコのが1番好きー」

「一緒だよ、どっちも好き、走るの、ブランコ乗るの」

「えー本当」

「ほらっ、見て、ブランコ、行ったり来たり、行ったり来たり、リズム見たい、いっぱい集中できる。いっぱい歌える」

公園内のブランコに、乗って話し合っていた。



1歩、2歩、3歩、約5m地点までは、舞、真衣は、横1列同じ位置を刻んでいる、4歩、5歩、舞が、5m程差を付けて行く。

舞は、前だけを向いて、歩を、刻みながら、真衣、20m集中と思う。

真衣は、前だけに、集中、集中、20mと、歩を進める。




今日こそ。

「舞ちゃん、あの木まで、競走」

団地内の公園で、2人して、競走している。

「ん〜、駄目だ、舞ちゃんには、かなわない、休憩」

「舞ちゃん、手、ぶらんぶらんだね〜、後ろから気になってたんだ」

ブランコで、遊びながら、話している。

「どうかな〜、あんま気にしてない」

「後、最後は、坂道5回ね」

「舞ちゃん、赤おに〜」



25m地点、通過。

舞ちゃんの手、ぶらんぶらん、速いー、


真衣は、10m先の舞を後ろから見て、必死に腕を振って追いかけている。


35m、40、45、真衣は、どんどん離されていった。

ゴール。舞は、振り返って手を振り、真衣が、来るのを待っている。








舞は、家の居間から、壁を背に立ち上がってケンケンをしながら部屋へと行ってしまった。

あー痛い痛いよー。ぶつけてないかな、けっこう、ドアの開閉にぶつけるんだよなぁ。前だけに視線が、集中していたら、足元なんて無理無理。ベッドに横になり、右膝裏に両手を組んで足を持ち上げる姿勢でいる。


天井に、集中集中。タイミングを計る。毎日、腹筋100回、

背筋100回、腕立て100回。30mダッシュ10セット。坂道ダッシュ10往復。イメージトレーニングは強く持つ。まず、代表になるまで。・・・・と紙筆が、数10枚部屋中に貼ってある。

肘で顔を覆うようにして、目に付く思いを避けてそのまま、眠りについた。

「舞、起きなさい、夕飯できてるよ」

「起きなよ、舞、知ってるね真衣ちゃん・・・」

「もう、ご飯、冷めちゃったよ、此処に置いとくよ」


お母さんは、食事を机に置いて部屋から出て行った。

ベッドから、ふとんを右壁に投げ出して置き、松葉杖を使って机に向かい、椅子に座る。あっ、ハンバーグだ、おろしのやつ、うわぁーおいしそう。喜び慌てて垂れ下がってもいない前髪をハンバーグに付かないように持ち上げる。


あっそうだ、髪切ったんだった。左足首の骨折をして、走るのを止めた頃に、思い詰めて短髪にしたんだった。

ハンバーグ食べよう。あーおいしいい、あれっ、お母さんありがとう。よしっ、日記を書こう。


○月✖️日 真衣、おめでとう、あなたの頑張りに祝いと感涙を込めてーパチパチ。よくやりました。次は、県大会、応援に、行くね。行きたい、行けないか。よけよけ。

あー足が痛い。痛いよー。ハンバーグおいしかった。

ハンバーグの懐かしい想い出に、涙でたよ。


机の上に伏せていた写真立てを起こして眺める。お父さん、お父さん。直ぐに写真立てを又伏せ直す。

引き出しから、アーム器具を取り出して、握力の練習をする。タイミング、タイミング、イメージトレーニング。


朝陽が、まだ、部屋の窓に差し掛かるより暗い時間に目覚ましよりも早く起きる事を、習慣のように繰り返していた

日々は、今は無い。意欲が、無いのか、どこまで止める事にしたのか、舞は悩んでいた。朝、目覚めての髪の手入れも、必要ないくらい、洗髪、乾燥に時間を掛けなかった。

急ぐ必要はない。朝食のパンと、サラダ、紅茶を済ませた後は、部屋で、マンガと自学自習をして、時間を過ごすだるけの生活習慣だった。今日は、何をやろうかな、数学の問題集を解こう。


「舞、お母さん、仕事に行くね、戸締まり気を付けてよ」

「はい、大丈夫、行ってらっしゃい」


数学は、開いたページが文章入りの問題だった。

与えられた時間と速さから距離を算出する問題で、読み始めてすぐに、目が潤んで、涙が一雫たれて来た。


ページの節々に、陸上に、関するメモが、書いてある。

あ〜無視なんて出来ないよ〜、くそっ、ハンド器具で、1、2、3、4。1、2、3、4。お父さん、痛いよー。


よし、歩こう、松葉杖をついて、部屋中を何度も往復する。4畳半のスペースをストップオッチを使って、インターバルの運動をした。タイムはどう、お父さん、駄目だよね。


スパイクは、スパイク履いて、松葉杖を放り出して、ベッドの下の子から、箱ごと取り出した。ああっぐわああ、痛い。入れー、痛い痛い、サポートが、痛い駄目だ、入れない、よけよけ。スパイクを元の場所に戻した。


スパイク袋には、マジックで、集中、イメージ強くと、書いた文字も、スパイクが、手入れされず、色褪せているのを気付かずに。


よしっ、もう一度。まだまだ。お父さん行くよ、お父さんと一緒に練習しているかのように、往復を繰り返した。練習後は気持ちがスッキリしたのか、身体を休む様に頭をひたすら使って、自習学習した。そのまま、机にうつ伏せで、眠ってしまった。左足首をぶつけないように、夢が見守っているかのように。


「舞、あらら、大丈夫、汗びっしょりだよ」

「ほら、置きて、準備しないと、汗流してらっしゃい」

「お父さん、待ってるよ、急ぎなさい」


舞は、汗を流した。何度も流した。今の思いを、消し去るように。身体の中の出したい水分を、出して、出し尽くすまで。お父さんに、会うんだもん、よけよけ。


「お母さん、行くよ、早く、何、化粧、泣いてないよね」

家の駐車場から、ワゴンアールに乗り込んで、病院に向かう。ワゴンアールは、お父さんが、舞と、練習する為に、必要な道具や、器材、テント等などの使い便利を考えての購入だった。


小学生の頃は、良く二人で、キャンプ兼練習に行っていた。お母さんは、看護師の夜勤、中夜勤、と忙しく一緒に行ったためしがない。お父さんが、言う、伝説の坂道には、学生時代の思い入れが強く、良くダッシュ練習した。


舞、後、20本だ、もちろん、後は、池、池釣り、魚が美味いぞ〜、かわざかな、釣ったさかなの火炙り。お父さん、ダッシュよけよけ、ほしぞら、ほしぞら、草の上に寝転がっての、きらきら、ほしたちの。舞、ほしぞらよけよけ、今は、ダッシュ後30本だ。よけよけ、よけよけ。お父〜さ〜ん。大キライ。


病院に、着いた。夜遅い時間の病院は、月明りに照らされて、数時間前の日常や通俗的な時間も、無かったように洗い流されて感じさせる。


時間は21時をちょうど、過ぎたあたり。お母さんの職場の病棟とは、中抜けの公園を抜けた先にお父さんが、入院している病棟がある。そこは、昼間でも、周りの高層団地に光を遮られていて、薄っすらとしている。人の行き交いも、日々、まだらで、静寂に時間が流れている気さえ伝わってきそうだ。


「舞、勝手口で、降ろすよ、場所覚えている。お母さんは駐車場に止めるから、ロビーで、待っててね。」


エレベーター前で舞は、お母さんと待ち合わせて、エレベーターに乗り込んだ。

「花、用意したんだ」

「もちろんよ、ヤマザクラ、注文してて、間に合ったよ」

「二人して良くキャンプで、撮っていたね、写真立て、お父さん、悲しむよ」

「うん、わかった」


お父さんと、二人で、過ごした、キャンプ練習。特に、秋から冬に掛けての坂道ダッシュ。駆け上がる視野には左右からの垂れ下がり、舞い散るヤマザクラの圧迫感、


まだ、幼い心を、強く、ねばり強くしてくれた。舞、ジャンプ。走るより、ジャンプ。地面に、甘えるな、離れろ、ジャンプ、ジャンプ。舞、舞え。


「何階だった、病室」

「最上階の5階から、3階の端の306号室」

「ほら、着いた」「大丈夫、少し落ち着けてから来てね、先に行くから」


お父さん、お父さん、痛いよー。この足、駄目なのかな。

痛い、痛い、恐いの、もうすぐ、ギブスのサポートが外れるよ。恐いよー、どうしたらいいの教えて、お父さん、会いに行くね、今行く。


お父さんは、ずっと眠っている。あの事故から。


その日は、舞の13歳の誕生日。お父さんとの、大切な約束の日。二人で、一緒に、遊園地デート。

小学生100mの県大会新記録を出した。二人の公約を達成した、ご褒美だった。


「舞、楽しいか、アイス落ちてるぞ」

「お父さん、溶けてるよ」

「そうか、美味いな」

「鼻、鼻に、こわい、焦って食べるからだよ」

「へっへっへほぉ」

「くわっはっは、けっへっへっほ、笑い方変だよ」

「舞だって、きっきっきっへっほ」

「次、どうする、あれっ、乗りたくないの」

「タイガー、ぐわぁーがー、タイガー見に行こう」


舞は、同じ年頃の子なら、殆どの人が、乗りたがる遊園地の乗り物が、苦手である。特に、身体を揺さぶる動作の乗り物や、高高い所から遊園地の真ん中をグルグルと突き抜け走る乗り物とかは、震えるように恐がり泣き出してしまう。まだ、舞が、物心もつかない、ハイハイ歩きをしていた頃。


「舞、こっち、こっち、ハイハイ、ハイハイ」

「舞、ママのところ、こっちこっち、ハイハイ」

「よしよし、いいぞ、いいぞ、ハイハイ」

よし来た、高い高いしよう、ほらほら、来た来た。

「見たか、ママ、スゴイ瞬発力だ、この足首の柔らかさ」

舞、ジャンプだ、ジャンプだ。


「そんなの、無理だよ、舞は、元気な笑顔の可愛い子」

ほら頬、触って見て、柔らかいよ、ぷにょっ、ぷにょっ。

よーし、高い高い、ほらっ、高い高い、ほらっ、

あっ、えっ、ああっ

「パパ、何してるの、救急車、救急車、電話して」

「パパ、パパ」

「ああっ、ああっ、うん。」


病院では、軽い捻挫と言われましたが、舞の、舞の幼い心には、奥深く、暗い明かりの灯が、植え出してしまった。


そして、怯える心が、安らぎかけ始めた頃に、又、落ちてしまった。高さが前よりも低い所から。ハイハイから、立ち歩きが、出来て、パパも、喜んでいる時に、パパが、トイレに行っている間に、落ちてしまった。


立ち歩きをして、パパを追いかけて。そこは、パパが外にあるトイレに向かう、玄関の少し高く作られた土手に。何かの為に、ママが、置いたクッションの上に舞は、落ちた。泣いて泣いて泣いて、泣いた。大事には至らなかったが、いつまでも、泣き止まなかった。


「お父さん、タイガー、ぐわぁーがー、へっへっほ」

「舞、ぐわぁーがー、ぐわぁーがー、タイガー強い」

「あー楽しかった、お父さん、帰ろう」

「ランラン、ランラン、へっほ」

「舞、お父さん行きたい所があるんだ」

「ランラン、へっほ、いいよ、次はお父さんの番ね」


二人は手を繋いで歩き出した。

「お父さん、痛いよー」

お父さんの舞の握る手はいつもよりも、少し力が入っていた。

「ランラン、ランランラへっほ」

少しずつ、近づくに連れて、舞の顏から笑顔が、無くなってゆく。

「お父さん、帰ろう、帰ろう、ここはいいや」

繋ぐ手の力を、振りほどいて、舞は、走る。その後を、直ぐに追い掛けて、舞を、捕まえる。


「舞、お父さんと一緒だ、行こう、行くぞ」


何度か駄々こねるも、お父さんの強い気持ちに、降参して向かい出した。


高さが、20m程の赤色鉄柱に支えれ、直径が、10m弱の大きな車輪状のフレームをしていて、その、円周に等間隔でゴンドラが、取り付けられている。その、各々の高さからの眺望は素晴らしく、楽しく、嬉しい、笑顔が、空間を飛びかっているであろう大観覧車の、真下に、二人はたどり着いた。


舞には、真っ赤ぐす黒い色の雲に覆われたバカでかい大きな車輪状のフレームが、僅かに見え、その周りを薄く青い煙のようなものが、周り続けながら、恐ろしい化け物の、顔を浮き上がらせて、吠えるように口や表情をして、襲い掛かって来る様に見えた。
































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