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9/12

そうやって素人を見下しているからクズなのですよ☆


「あっ。感想きてる……!」


 汪真オウマくんは小さく喜びました。感想は書き手にとってみれば何よりも嬉しい報酬だからです。


「ふーん。はいはい、おめでとうですね。ところで、マンガの続きってどこですか?」


 妖精まっちーは今日も優雅な生活をしています。


「あっち。あのさぁ、少しは祝ってくれよ」

「感想の質によりますね。たまにイタズラが来て『ぬか喜びシステム』が発動するかもしれませんし」


 ホーム画面の『感想が書かれました』という赤文字は、希望しすぎると絶望し、絶望しすぎると希望に救われることがあるものなのです。

 汪真オウマが感想を開いて中身を読んでいきます。しかし、その感想を読みすすめるにつれて、どんどんと顔が険しくなっていきました。


妖精まっちー。変な感想が来た」

「えー。たまには自分で考えてくださいよぉ。なんですか?」


 本気で面倒くさがっていますが呼ばれたらちゃんと妖精まっちーは見てあげます。やはり妖精まっちーは優しさの権化ごんげの女神なのです。今日も妖精まっちーの魂の美しさが輝いています。


「えーと、なになに……『感想:セリフと地の文章の間に行間を入れた方が読みやすいです。あと、4話目で《帝国暦千九百九十八年に――》、と書いてありますが《帝国暦1998年》の方が良いと思います。内容の質は良いですが、全体的に読みにくいので見直してみると良さそうです。上位作品を眺めるだけでも良いので、読みやすい形式というのを確認してみてはいかがでしょうか?』……ですか。うわー。すごい感想が来ましたね」


 妖精まっちーは哀れんだ目を汪真オウマに向けました。


「だろ? これ知ってるぞ。上から目線な読者どくしゃ。ネットだと毒者どくしゃって言われているんだよな。偉そうな口をして、どんな作品を書いているのかと見たら何にも書いていないしさ。まったく小説はなんたるかを知らないで威張るなんていいご身分サマだよなあ。妖精まっちー、今日は毒者について語ってくれないか?」

「いや。毒なのはアンタの思考パターンですよ。こんな感想をもらうなんて恥じる気持ちは無いのですか? まったく、自信を持っている馬鹿ってかえりみないから、自分が変態なんだって気付けないのですねぇ」


 妖精まっちーの意外な反撃に、汪真オウマきょをつかれました。妖精まっちーは小説の妖精なので、小説に関しては妖精まっちーの言っていることが正しいのです。


「だって小説ってようは国語だろ。帝国暦千九百九十八年ってのは漢字で書くべきだ。読みやすさを考えれば数字は横文字だから使っちゃダメだろうに」


 アチャーと今度はまっちーが顔を険しくする番でした。


「いやいや!? 『小説家になろう』って横文字で読んでる人が多いのに、なんで読みやすさを考えているのに縦書き優先の話になるんですか? パラダイムが凝り固まってますね。重症です」

「パラダイムって、なんだそれ?」

「こうあるべきだって固まりすぎなんですよ。読むのが小難しいからその書き方は止めろっていう忠告をしてくれたありがたい感想ですよ、コレ」

「小難しく見えるかもしれないが、立ち止まって考えることによって初めて『読む』って意味が生まれるんじゃないのか?」

「どんだけ自分を美化して飾ろうが、1998年は止まらなくて良いと思いますよ。そういうのって味がある台詞セリフまわしとか、文章とかに対して狙ってキメる技法ですし」


 やれやれとまっちーが肩をすくめました。


「今日はパラダイムシフトについて勉強しましょうか。パラダイムとは価値観のことで、シフトが移動ですね。つまり、凝り固まった価値観から移動しましょうという意識の問題の話ですよ」


 今日もまっちーの授業が始まります。汪真オウマは真剣に耳を傾けました。


「パラダイムの作られ方です。大雑把に言うと、他人の言ったことと、自分の経験があったら、自分の経験の方が優先されることが多いってことです」

「まあ、他人の情報なんて精度が分からないから信じにくいしな」

「でも、基本的に何かに詰まったときは自分が間違っているのですよ。だって、自分が正しいときは詰まりませんからね。詰まらないならスムーズにできるはずなのですからね。パラダイムシフトっていうのは、詰まったときは外部のほうに正しさがあることが多いから他人の意見はちゃんと聞きましょう的なお話なのですよ」

「いや、書いたことがないコイツに言われたくないし。書いていない人の意見なんて参考にならないだろ?」

「やれやれ。それがパラダイムが固まっているってヤツなんですけれどもねえ。例えば、コンビニでマズい飲み物とかお菓子とかって買ったことはないですか? 冬季限定ナントカ味に釣られて食べてみたら、『あっ……。これ、2度目は無いな』っていう奇妙な味のやつです」


 汪真オウマは心当たりがありました。汪真オウマは以前にコンビニで売っていた『ギガンティック☆ミルクピーチ ティー』が苦手でした。砂糖を入れた牛乳に、桃の匂いをギガント級にトッピングされてあり、味と香りが別個に主張しているため気持ち悪かったからです。


「それは、いつの間にかコンビニから消えていませんでしたか?」

「無くなってた。でも、みんなもマズいって言ってたから当たり前だと思う」

「その《当たり前》が重要なポイントです☆ 飲み物を甘味料とか使って調合という形で作ったことが無いのに、味に対して文句を言えるのですよ。だって飲み物って何度も口にしていますので、何度も体験していたら必然的に味にうるさくなりますからね」

「でも、作ったことが無いなら分からないんじゃないのか?」

「だったら、行列の出来る名店のお菓子って本当はマズいのですか? 実は大して変わりなくて、平凡と変わらない味だったりするのですか? お気に入りのラーメン屋とか、パスタ店とか、ハンバーガー屋のポテトは赤と黄色のチェーン店の方が好きとか個人で好みがありますよね? 本格的に作ったことが無いのにアッチの店の方が旨いとか評価しているのってけっこうあると思いますよ。あなたは自分のことをバカ舌だと思っているタイプですか?」


 汪真オウマは妖精の指摘に悩みました。


「いや……。うーん。俺って味オンチだったのかな……?」

「違いますよ。『作れなくても評価ができる』というのが正解なのです。評価をできるポイントは『好きだから』なのですよ。もっと言いましょうか? 人間は卵を産んだことがありません。でも、その卵が旨いか腐ってるのかは評価できます。何度も食べてきた卵好きのツウの人なら、コクがあるとか、卵特有のほのかな甘みが欲しいとか、そういった次元の評価もできるでしょう。わたしが言っているのは そういうことなのですよ」


 妖精まっちーにキッパリと両断された汪真オウマはたじたじで聞き入ります。


「そもそも、小説って素人に対して売るものなのですよ。ほとんどの人が書いたことが無いのに、読んでみたら面白かったという気持ちがたくさんあつまるからベストセラーになるのです。素人に対して売るものなのに、素人側が感じた声に耳を傾けないって何ですか? あなたはあなたの作品を読んで面白いって感じたファンをバカにしているのですか? 書いている側が、書き手は崇高であるって威張って書いてるからこんな感想をもらっても恥じる気持ちが無いのですよ☆」


 つまり、書き手であることに誇りを持ちすぎて、無意識のうちに素人の意見だからと中身を見ない事を選び、無条件で切り捨てていたのです。もちろん書き手の意見と比べれば精度の違いがあれども、読んで感じたことなのですから立派な意見に違いありません。読んで感じたことだから感想であり、感想だからこそ尊い価値があるのです。


「なるほどな。俺って調子にのってたのかな……?」

「そーゆーコトです☆ 卵評論家の人にコクが欲しいと言われたら、味の問題としては正しい指摘なのですよ。どうやっておいしい卵を産む鳥を育てるかはテクニック論の話ですので それは作る側の問題です」

「なるほど。『見る』と『作る』は違うってことなんだな」

「正解です♪ 自分の経験由来の思い込みは間違っていることに気付けないので厄介なのです。きっと駄目に決まっているというパラダイムに注意して、他人の意見は参考にしましょうってお話なのですよ☆」



◇◇◇



 『まっちーの助言⑨』

 パラダイムに囚われずに、他人の意見を参考にする。



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