その思考回路だから書けなくなっちゃうのです☆
「うーん、違うなあ。あぁー。これじゃない。もっと表現を豊かに、うーん……」
汪真くんが今日も執筆で悩んでいます。
「違いますね。求めているのは、こうじゃない。もっとこう、アグレッシブで攻撃的な味なのです……!」
妖精が、今日は手作りプリンで悩んでいます。
「おまえ、さっきから何を悩んでいるんだよ」
「プリンの研究ですよ。わたし好みの舌を突き刺すような強い甘さが欲しくて、砂糖と生クリームの量を研究しているのです。いやぁ、好きなことで悩むのって楽しいですね☆」
「俺はもう悩み飽きた。何もしたくない……」
「何を言ってるんですか? 遅れた五月病の発症ですか? ずいぶんと時差がある脳みそですねぇ。あっ、まさか!? 頭のネジ部門で ゆるキャラになりたいんですか? 斬新なキャラ設定ですね☆」
汪真は重たいため息をつきました。今日は軽口には答える気が無いようです。
「マジメな話。俺はスランプになったかもしれない。もう書けない。駄目だ。おしまいだ……」
「いいえ。違いますよ」
汪真の弱音をピシャリと妖精が止めました。
「あのですね。あなたは『もうおしまい』じゃなくて『すでにおしまい』が正解なのです☆」
もっと辛らつでした。汪真は深く傷つきました。
「スランプだぞ。もう駄目だろ?」
「あなた、スランプを舐めすぎですよ。スランプになったときって、本当に書けないですからね。気力が無くなって、パソコンを見るのも吐き気とめまいがしてきますから。言葉が浮かばなくて書けない状態がスランプじゃないんです。行動を起こせない意味で書くことができない状態がスランプなのですよ」
わりとマジメなツッコミを入れてきました。意外と真剣だったので汪真は黙りました。
「あなたの書けないって、空回りしているとかの書けない状態なのだと思いますよ。スランプっていうのは心のエネルギー切れ状態と、気合いの空回りが合わさってトンでもない事になっているときなのです。そうですねぇ。今日は気合いの空回りで書けない状態を説明しましょうか」
「じゃあ、それを頼む」
「はい☆」
妖精は小説の妖精ですので、何人も書くのを辞める人も見てきました。その人たちに共通していたであろう、もう書けなくなる人のスタンスを今日は説明するようです。
「空回りして書けなくなる人は大きく分けて、2種類います。1種類目は、何度も現実に絶望して腐ってしまう人です」
「それは、どういう意味だ?」
「ひとことで言うと、『感想が来ない病』とか『アクセス数が少ない症候群』ですね☆」
汪真には心当たりがありました。書いているのに感じる無力感は、感想や、アクセス数を見たときに起こるからです。
「アクセスや感想を見るなとは言いませんし、見なければ反省できないですから逆に問題になります。でも、アクセス数はある程度の基礎ができていればそれなりに入ります。感想も似たようなものですね。そもそも、面白い小説を何種類も読めばコツがなんとなく分かってきます。だから、ここって珍しく根性論が効く場面です。対策は『諦めるな』なんですよねぇ」
「気合いでどうにかなるものなんだ?」
「ならない場合もありますよ。この諦めるなというのは、『技術の習熟』を諦めるなと言う意味です。そうですねぇ。昔の話をしましょうか」
妖精が昔にあったことを思い出しながら、ぽつぽつと話していきます。
「評価されなくて悲しがっている人がいたんですよ。それで、何か工夫をしているのかと聞いてみたら『工夫の仕方が分からない』と言ってきたのです。だから、じゃあ映画とか見るのも勉強になるよと教えましたが『映画は興味ないからイヤだ』と言われました。それならあなたはいま何をしているのと聞くと『自分の世界を一生懸命がんばる。自分だけの輝きを探す』と言っている人に会ったのですよ」
「良いんじゃないのか? オリジナルの文章が書けそうで、こんな人こそ成長できると思うけど?」
「このタイプの人は、だいたい消えています。自分しか見ていませんから答えが見つからない状態なのです。そもそも、自分の内に答えがないから執筆が詰まっているのに、自分の内にあるはずだと思い込んでいるから、ずっと答えが探せなくて心がボロボロになっていくのです」
「ボロボロになったからこそ輝くものがあるんじゃないか? 苦労は全て、小説の糧になるだろ?」
「効率の話ですよ。自分しか見ていないなら、それは自分の世界の純度を上げる作業です。純度を上げることを悪いとは言いませんよ。でも、自分という1人の人間の存在と、外から得られるたくさんの人間の存在があって、どちらの方が得られるものが多いですかというおはなしです。さっき、根性論を言いましたよね。新しい要素が欲しいとき、自分の中に要素が埋まっているだろうと根性が空回りしてしまうのがこれの怖さなのですよ」
妖精は自分の胸の内ではなく、外にも答えがある可能性を提示しました。
「大事なことなのでまた言いますけれども、ようは自分の内に答えが無い場合だってあるはずです。それを体感的に信じられないのが原因ですね」
「外からの情報も同じくらい大切にと言うことか」
「その通りです。自分の純度を高める作業と、要素を取り入れる作業はまったく別問題なのです。ゲームで例えたなら分かりやすいですかねぇ。たとえばモンスターを捕まえて味方にして育てる系のゲームです。最初にもらった初期モンスターを極めるのも1つの手です。でも、外の世界もとい広いマップをめぐってたくさんのモンスターと出会ってその中で見つけた あなたの本当のお気に入りモンスターを極めていくパターンも良いと思いませんか? 手持ちの純度を極めるのは、わざわざ初期モンスターじゃないと駄目ってわけじゃないのですよ。手詰まりしたなら、新しい情報もとい仲間を開拓するのも手ですよってことです」
妖精は自分の内の純度を上げる作業と、外から取り入れる作業の両方を尊重するように言いました。
「では、2種類目です。これは、自分の作品が評価されなくて、それでも頑張り続けすぎて駄目なループに入ってしまう人です」
「最初の人とは違いがあるのか?」
「心の問題ですから、内面で注目してください。1種類目は外部からの影響によって自分を傷つける流れです。2種類目は自虐から自分を傷つける流れなのです」
妖精が2つの違いを説明しました。
「この2種類目の方が重症です。1種類目は極端に言えば、外部から駄目だと言われてヘコんだ系です。それで2種類目は、そこそこ良作なのに もっと良い作品を作ろうと考えすぎて自分にプレッシャーをかけて潰れる系のことですね」
「どんな意味で重症なんだ?」
「1種類目は他人からの影響ですので工夫次第では防御できますよね。2種類目は自分から自分へ攻撃していますので防御のしようが無いということです。自分の心って、生きている間は ずっと稼動していますので、24時間攻撃されているわけですね。この状態になると心が擦り切れるので本当にヤバいです。信じられないかもしれませんが、ちょっとずつ削れていくので自分の状態が分からないのですよ。傷ついていると気付いても、そう思ってしまう自分が悪いのだと心の声を黙殺してしまうので手におえません」
物語の面白さはなんだろうかと悩み書き続けていき、徐々に不安に押し潰される恐怖を妖精が語っていきました。
「しかも、これって書く側にとって重要な部分なので切り離すことも難しいのですよ。不安があるからもっと頑張ろうと成長しますよね。『俺の作品はサイコーだから だいじょうぶだぜ☆』と思い続けていたら、練習する気が失せますからね。ある程度の不安も大事な執筆意欲なのですよ。でも、丁寧に書くほど、世界観が増えていって筆者の手から離れる場合があります。自分の知らない設定だったり、キャラクターだったり、細かく考えていくと際限が無くなって、自分の手におえなくなって潰れてしまいます。これが2種類目に多いタイプですね」
ちゃんと書こうとするほどに、考えなくてはいけないことが増えていきます。考えることが増えて、それに押し潰されていく場合があることを妖精は汪真に教えました。
「どうすれば解決できるんだ? 例えば、世界観なら、納得するまで最後まで決めていくとか?」
「――答えは『細けぇこたぁいいんだよ!』です☆」
妖精が『テヘペロ☆』をしました。汪真はちょっとだけ『イラッ☆』とキました。
「そもそも世界観とかってそんなに気にしないものですよ」
「でも、小説を誉めるときって世界観に惹かれて素晴らしいとかあるだろ? じゃあ、しっかりしないといけないんじゃないか?」
「ぶっちゃけ、世界観が無くても小説はまわるものなのですよ。例えばですねぇ。なんで妖精がここにいるんだとか、そもそも小説の妖精って何だとか、みんな細かい設定を気にせずに読んでいますよね? こんなユルさでも物語って続くことができるんですよ。これって、メインが『小説の書き方の説明』であって、『それ以外の要素』はそこそこ整っていればいいってことなのです☆」
妖精は 禁断の設定 をサラリと吐きました。さすが妖精です。普通のキャラクターがやれないことを平気で実行してしまいます。これはまさに、一般的なキャラクターとは格が違うということの証明でしょう。
「まあ、メインの要素以外は適度に力を抜けということか。なんとなく分かったけど、これって予防だよな。実際に書けなくなっている人はどうするんだよ?」
「治療方法はありますよ。それは『俺すげぇぇぇ!!』と全力で自慰して調子にノることです☆」
(それができないから書けないんじゃないの!?)
妖精はまた暴言を吐きました。今日の妖精はひと味違います。マジで正直モードなので地の文章から離脱しません。感動モノです。
「感覚の話ですので、たとえ話をしましょうか。写真って中途半端に遠慮した笑顔で撮ると不気味に写りますよね。なので、いわゆる調子にノッた笑顔の方が良いのです。小説も同じく、調子にノッて書いたほうが良いものなのですよ。1回 心がオチてしまったらとても大変なのは分かりますが、勇気を出してもう一度 最初に小説を書いていた頃のような自信を持つことが大切なのです」
「なるほど。テレビの芸能人とか、エラそうな偉人が名言で『自分に自信を持て!』とか言うやつに近いのかもな」
「そのエラそうな人が無責任に開き直った形が『夢を諦めるな☆』とか言いやがるんですよね。でも、これって実は大事な言葉なのですよ。落ち込むのならそのマイナス状態と同じくらいプラス側に開き直らないと立ち上がれないという意味なのです。なので『夢はいつか叶う☆』だとか、そういう極限的な開き直りが必要なのかもしれませんね」
妖精が今回のテーマに言葉を結びます。
「現実を見てマイナスを意識すると自分が潰れます。でも、希望に酔って自分の才能に自慰しすぎると成長できないから作品が堕落します。希望と現実を見て、ちょうど間を目指して生きていかないと駄目なのです。どちらかにかたよった瞬間に、成長速度が落ちてしまうでしょう」
「そうは口で言うけど、言っていることはかなり難しいんじゃないか?」
「意識の問題ですので、頭に留めておくだけでOKですよ。知っているだけで、だいぶ気持ちが違いますからね。失望しすぎたら希望を見て、調子にノリすぎたなと思ったら現実を見てください。それだけのことなのですよ☆」
◇◇◇
『まっちーの助言⑧』
希望と現実の間で執筆する。