プリティーな私のようなキャラは偉大なのです☆
「さぁ、契約しますか?」
パソコンの前で、妖精がふわふわと浮きながら問いかけました。彼女は身長30センチ程度で、長い金髪に碧眼。青い花を連想させるドレスを着ています。美人と言うよりも、くりくりした瞳でかわいい系の容姿の妖精でした。
「な……なん、だ……?」
主人公の汪真くんが驚いています。彼はあまりの出来事に声を失っていました。なにせ明らかに現実では存在しないはずのものが目の前にいるのですから、気が狂ったのかと混乱してしまったのです。
「担当権はあなたにあります。するか、しないかは、あなた次第なのです☆」
「本当に、俺が見えているのは、本物なのか?」
「本当に小説の妖精なのですよ☆ 冒険者やダンジョンから、世界を飛び越えて超絶アイドルな マスコットフェアリーの『マチィーン』ちゃんです☆ 気軽に『まっちー☆』と呼んでくださいね」
「お、おう……? え? なにこれ……?」
妖精は信じてくれない汪真に困り、とても悲しくて泣きたくなりました。うるうると泣きそうで、あわあわと戸惑っています。
「ケッ! 現実を信じていない人間不信ヤローのようですね。 っしゃおらー! 鳩尾に 飛び膝蹴りィィ――ッッ!」
「グハァ――ッッ!?」
実は泣きたくなっていませんでした。
実は彼女は地の文章に何が書かれていようがフリーダムに動けたのです。なにせ彼女は小説の妖精なのですから文章よりも上位の存在なのです。つまり彼女は小説の運命に左右されない無敵の存在なのでした。
「信じましたか? ほら、契約しないともう一発いって、ハイと答えるまで何度も目を覚まさせてあげますよ☆」
「ひィ――!!?」
こうして、妖精の情熱的説得により、汪真は彼女の存在を信じてみることにしました。
「わっ、分かりました! 小説が上手になりたいので契約しますっ!」
汪真は小説サイトに投稿している男子高校生です。でも、なかなか思ったようにアクセス数が伸びずに悲しんでいたので、これは願ってもいない幸運なのでした。たぶん。
「購入決断の成立なのです☆ ところで、何か忘れていませんか?」
ニッコリと無邪気に笑う妖精に、汪真は何のことだかさっぱりと分からずに、はぁ、と気の抜けた相槌を打ちました。
「うわ、マジな顔で分かってないですね。脳みそ腐っているんじゃないですか? これは重要課題なのです! 協力提携なのですから、そちらから何か差し出すものが必要です。さぁ、さぁ!」
妖精は言いました。施しは受けませんが汪真がどうしてもと言うのでしたら何か引きとりましょう、と その存在のけなげさをにじみ出しながら言いました。
え? 暴言を吐いているように聞こえましたか? 落ち着いてください。それは錯覚でしょう。
「いきなり言われても渡すものなんか無いし」
「おっと、お金なんて渡されても困りますよ☆ わたしは義姉のホミカみたいにイジ汚くないですからね。さぁ、とにかくビックリさせて凄いものをちゃっちゃと寄越せなのです!」
お金などいただけません。あなたの身なりで出せるもので良いですよ、と謙虚に言いました。
おやおや。不謹慎な言葉に聞こえたなんて言う人もいるようですね。それは誤りです。きっとあなたが妖精の美しさに嫉妬をした幻影が見せたものなのかもしれませんね。
「急にそんなことを言われてもなぁ……」
そこで汪真は先ほどコンビニで買った ある物を差し出しました。
「これは……?」
「焼きプリンです」
「用途は? どうやって使うのですか?」
「食べ物です。食べられます」
「う~ん。食べ物ってショボいうえに無難すぎませんか? もっとこう、金剛石とか、翠玉とか、色々あるでしょう? あなた妖精をバカキャラかと舐めてるんですか?」
あまり高価なものはいただけませんと、慎ましやかに妖精は答えました。
ええ、絶対にそう答えました。
「まあ、異世界の食べ物となると珍しいですね。とりあえず味見をさせていただきます」
妖精がプラスチックの透明スプーンをスコップのように持ち、焼きプリンに突き刺して、よいしょっと持ち上げて口に運びました。
汪真はおそるおそる妖精に聞きました。
「ど、どうですか?」
すると、妖精は慎ましやかに、焼きプリンをお上品に食べ始めました。
「おっほォォ――!! ナニこれ? んぐっ、もぐっ、ウマ! あんぐっ、うまっ! 激ウマなんですけど!?」
嘘でした。本当はむさぼり食べていました。
「ふぅ。最高幸運! 最高決定なのです! これを100個で契約成立なのです☆」
こうして汪真と、謙虚な小説の妖精との生活が始まりました。
◇◇◇
『まっちーの助言①』
妖精のまっちーが汪真にアドバイスする流れの物語になっています。テクニック論は少なめで、習慣的なお話や、心の置き所を中心に語っていく予定です。