終章三節 - 木枯らし
秋兵衛の疑問に相手は片手を出して見せた。
その意図を正確に察して、秋兵衛はその手のひらに大判を一枚乗せる。彼らにとって庶民が一年普通に生活できるほどの大金も、わずかな情報をやり取りするための道具でしかないようだ。
「当面中州に行く予定はありません。ただ、もし中州の姫や城主に会う機会があれば、言葉を交わす間もなく処理するでしょう」
「『処理』とは怖い言葉っす。中州城主一族を消して、あなたに利益があるんすか?
――いや、この質問はなかったことにしてほしいっす」
「それが賢明でしょうね」
「…………。そろそろ必要な情報交換は終わったすかね……。これ以上話すと口を滑らせそうっす」
秋兵衛はそう言って話を切り上げようとした。
しかし、「情報屋」と呼び止められる。
「もう俺の持ってる情報はないっすよ。すっからかんっす」
「あなたは華金王の『影』ではないのですか?」
「なんで今さらそんな質問なんかするんすか……?」
秋兵衛は顔面に投げられた大判を即座に投げ返しながら尋ねた。
「何となくですね。しいて言えば『華金王の影が一枚岩でなくなってきたから』でしょうか」
彼は秋兵衛の言葉を借りて答えた。
「むぅ~……」
考えながら秋兵衛は指を三本立てた。相手はその通りに大判を三枚寄こす。
「声をかけられたことはあるっす。でも、俺は自由気ままに最高の商品を一番高く買ってくれる人に売るのが好きっすし、四ッ葉屋は『四ッ葉屋』であって、他のどの集団にも属さないんす。もちろん、場合によっては華金王に情報を売ることもあるっすよ。でも、ほかの人にも売るし、どちらかといえば俺は華金国内を引っ掻き回してる嫌な存在かもしれないっすね。
せいぜい消されないように気を付けるっすよ。あ、中州に亡命するってのも手っすね。あの姫さんなら、誠心誠意お願いすれば助けてくれそうっす」
「なるほど。あなたがそんなことを言ってしまうほど、中州とそこの姫の影響力は大きいのですね」
そうつぶやいて、相手は立ち上がった。彼なりに満足の行く情報が得られたらしい。
「お帰りっすか?」
秋兵衛は見送りのために姿勢をただしながら尋ねた。
この廃屋は彼にも秋兵衛にも全くゆかりのない場所だ。人目につかない場所と言うことでここが指定されたが、先に彼が自分が本来いるべき場所に戻るらしい。
「えぇ。貴重な情報、ありがとうございました」
型にはまった礼をしたあと、彼は静かにその場を立ち去った。
それを無言で見送った秋兵衛は、短く息をつく。
「いやはや、あの人を相手にすると緊張するっすねぇ」
全く緊張感のない様子で言う。
「いやぁ、暗鬼さんの情報は俺も欲しかったすよ。でもやっぱ、姫さんの周りは守りが固いっすわ。暗鬼さんとはお互い顔を見知っているから直接会うわけにはいかないっすし。変装しても――。ん~、あの人相手じゃ絶対ばれるっすよねぇ……」
誰もいない空間にそう言い訳して、彼も帰り支度をはじめた。脳裏でこれから起こるであろうことと、その情報を得る手段を考えながら――。
「まぁ、どう転んでも厳しい状態が続くっすよねぇ……。華金にとっても中州にとっても――」
そして秋兵衛もその場を立ち去った。
誰もいなくなったその場所には、ただ木枯らしの音が響くのみだ。
先ほどまで人がいたことが幻だったかのように。
<完>
現時点でシリーズ最長の作品『嵐雨の銀鈴』がやっと終わりました。
龍神の詩シリーズは、せいぜい長くても文庫本一冊くらいの独立した作品で成り立っています。
外伝以外のそれぞれの作品は時系列で並んではいますが、内容自体は前作を踏まえつつも、前回の終了からすぐの「続き」と言った感じではありません。
ただ、その中にも、実はグループ分け的なものがありまして、
龍神の詩1『羽根の姫』~3『袖ひちて』
これは、私の中では「暗鬼編」と呼んでいて、シリーズの導入と比呼が中州になじむまでの物語です。起承転結の「起」ですね。
そして、4『龍姫の恋愛成就大作戦』~7『嵐雨の銀鈴』
ここまでが嵐雨編と呼んでいます。敵国華金との関係や主要キャラもここでほとんど出尽くします。名前だけの登場で、作品にキャラとして出てきていない人はいますが……。
起承転結の「承」が終わったところですね。
と言うことは、ここでシリーズも折り返しくらい?
次作からは起承転結の「転」に突入。また少し雰囲気が変わってくるのではないかと思います。
あ、この作品はまだ書きたいおまけ短編があるので、一応未完成状態にしておきますが、まだ構想があるだけで何も書けていません。
作品の状態が「完結済み」になっていないから、ややこしいですが、一応本編はこれにて完結です!!
2013/5/26
最終更新2016/10/11




