終章一節 - 華金国玉枝京
「情報は以上ですか?」
彼の言葉には全く感情がこもらない。使う言葉も、丁寧ではあるが、それ以上の特徴がない。あえてそのような話し方をしているのだろう。
声も男とも女ともつかない中音。雰囲気から何となく男性だと思っているに過ぎない。
「ええ、そうすよ。何か不足があったすか?」
顔さえ見えない年齢性別不詳の相手は、明らかに訳ありで危険なものを持っている。
しかし、彼――四ッ葉屋(よつばや)秋兵衛は全くひるむことなくそう問い返した。
ここは華金の王都「玉枝京」のはずれにある廃屋。
秋兵衛が華金に戻って間もなく、顔すらも定かでないこの男に呼び出された。
「中州の情報を持っていると言う割には、姫と一部の大臣、官吏の話ばかりで、城主の話がないと思いまして――」
「そうすねぇ……。その辺の情報は俺も欲しかったんすけど、この時期に中州城下町に入るのはさすがに危険すぎて、できませんでした」
情報の整理をする間もなく呼び出してきたのは、相手の方なのだが……。
秋兵衛はそう思いつつも、自分の非であるかのように申し訳なさそうな顔をしてみせた。
「姫さんは素直で御しやすそうだったすから、もっと情報を引き出せるかと思ったんすけど、周りの人たちがしっかりしてたっすね。そのしっかり具合はさっきお伝えしたとおりっす。
まぁ、もし次にあなたの欲しそうな情報が手に入ったときは、優先的に回すっすよ。華金の王族に並ぶお得意様すから」
「期待して待っておきましょう、情報屋」
たいして期待しているようには聞こえない口調だったが、言い値で情報を買ってくれる上客であることに変わりはない。
「本業は一応薬売りと貿易商なんすけどね、一応」
「一応」を強調したのは、表向きの薬売りや貿易商としての収入よりも、裏の商売での稼ぎのほうが大きいからかもしれない。
「あー、ちょっと確認なんすけど、この情報はいつも通り他の人にも売っていいっすか?」
「かまいません。どうぞご自由に」
「それじゃあ、いつも通り少し割り引くっすね」
秋兵衛はすでに受け取っていた大判の三割ほどを相手に返した。
「ちなみに、すでに売るあてはあるのですか?」
相手は返金された大判の一枚を秋兵衛に放り投げながら尋ねた。
「今回の戦を仕掛けた第二王子、裏で糸を引いた華金王、少しでも有利な立ち場にいたい第一王子、お金だけは有り余っている第三王子。そのくらいっすかね。ちなみに、今言った順番で交渉していくっすよ。向こうから来たらまた別っすけど。彼らはほかの人に同じ情報を回すなと言ってくるので、この情報を得るのは四勢力のうちどれか一つっすね」
秋兵衛は投げられた大判を慣れた動作でしまいながら答えた。
「だんだん本格的になってきましたね。あなたはどの勢力につくのですか?」
「本物の商人はどこにもつかないっすよ。つかず離れず、一番高く買ってくれるところへ求められた商品をお届けするだけっすから。むしろ、俺はあなたがどうするのか気になるんすけどね……。
――おっと、これはひとりごとっす」
相手の正体を知っているかのように口を滑らせたのはもちろんわざとだ。
彼は暗黙の了解で所属、正体、性別、年齢――、すべてが不明の謎の存在として扱っている。
秋兵衛はおどけてみせたつもりだったが、相手は苦笑を漏らすこともなく、無感情だ。




