十三章六節 - 城主と老主人
絡柳よりも半馬身だけ先頭を行く大斗は、中州城下町を囲む川の一本――中州川に架かる橋の手前で馬を止めた。
絡柳も大斗とは反対側の道の端に大斗と向かい合うようにして止まる。与羽はその少し後ろの中央でゆっくりと手綱を引いた。
中州川の対岸には城下町の人々が並んでいる。
止まりながら彼らを見渡した。見知った顔も多い。ともに黒羽、風見、天駆を旅し、船で戻る与羽たちと分かれて一足先に中州城下町へ向かった人々もすでに城下町へ戻っている。
そしてその中央、橋の正面には――。
「乱兄」
与羽はつぶやいて馬を滑り降りて駆け出した。
城かその入り口付近にいるだろうと思っていた兄に、こんな城下町の外れで会えるとは――。
「乱兄!」
今度は乱舞がいた驚きよりも、喜びが大きく勝って叫ぶ。
「おかえり、与羽」
乱舞は両腕を開いてほほえんでいる。
与羽はその胸に飛び込んだ。
「乱兄……、私――」
言いたいことがたくさんありすぎて言葉が出てこない。なぜか涙まで出てくる。
「いっぱいつらいことがあったんだね」
黒く染めた与羽の髪を片手ですきながら、乱舞はやさしく言った。
「無理に今話してくれなくてもいいんだよ。中州に帰ってきたんだから、時間はいっぱいある」
「うん……」
与羽がうなずいたのを確認して、乱舞は顔をあげた。
そこには身なりと姿勢を正した絡柳と大斗。城主の目が向くと、二人は臣下の礼をした。
「おかえり、絡柳、大斗。辰海君も――」
乱舞は後方で目を伏せて礼をとる辰海にも労いの笑みを向けた。
そして、あとから帰ってくる人々を迎えるべく数歩進んで止まった。涙をぬぐいながらも、城主代理の顔をした与羽がその一方後ろに並ぶ。
さらにその後方には、絡柳と大斗、辰海が横に並んだ。
「……でも、待つだけってのも結構退屈なんよね」
しばらくはそのままだんだん近くなる集団を見ていたが、乱舞がそうつぶやいた。
「お前もか」と絡柳が頭を抱えるのと同時に、乱舞が駆け出す。それそこ、城下町への想いを抑えきれなかった与羽のように。
乱舞は全力疾走だ。すぐに満面の笑みで続いた与羽は追いつけない。
「ちょ、嵐兄。速い」と与羽の笑みはたちまち本気の顔になる。
「ほんと、袴とはいえ正装してるのになんであんなに速く走れるんだか」
与羽と並走しながら大斗がぼやく。
与羽を挟んで反対側、半歩後ろには無言の辰海。
絡柳はため息をついたあと、早歩きでついてくる。彼らに追いつくつもりはないようだ。
「みんな、おかえり!」
誰よりも早く城下町へ帰還する一行にたどり着いた乱舞は、そう無邪気な笑みを浮かべた。
「月日大臣、紫陽大臣、官吏のみなさんもありがとうございます」
しかしすぐに表情と姿勢を正して、先頭にいる二人の大臣、官吏たちをねぎらった。
その後すぐに彼らの中央で守られるように輿に乗っている舞行の目の前まで歩み寄る。
「老主人、無事にお戻りになられて良かったです」
乱舞は城主の顔でそう言った。
「乱舞も元気そうで何よりじゃ」
しかし、舞行は孫に向けるおだやかな目をしている。それを見て、乱舞も表情を緩めた。
「復興は順調かの?」
「はい、なんとか……」
再び城下町へ向けて歩き出しながら、孫と祖父は言葉を交わす。
「そんなに気張るな。中州にはおぬしの助けになる優れた人材がたくさんおる」
舞行はやっと追いついた与羽と彼女の両脇を固める大斗と辰海を見た。彼らの後ろには堂々とこちらへ向かう絡柳もいる。
「まぁ、わしは残り少ない人生、おぬしらが中州をどう導くのかじっくり見守らせてもらおうぞ」




