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龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
十三章 水龍の国
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十三章二節 - 中州国銀工町

「それは、まだわからない……」


 与羽の立場が不安定なものであることは、この旅で会った人の言葉や体験でなんとなくわかった。どこかに嫁ぐでもなく、城の奥でおとなしく侍女たちと暮らすでもなく。城下町で遊び、もしかすると城主以上に民衆から愛されている。

 政治に口を出せば、城主も官吏も与羽の言葉に耳を傾け、時には城主以上の発言権を持ってしまっているかもしれない。国内の情勢によっては、中州国を分裂させかねない状態だ。


「けど、少し自分の立ち位置を見極めた方が良いんじゃないかとは思っとる。今の私は、中州城主一族って言う生まれにあぐらをかいとるだけなんかもしれん。名実の『名』しかないのかもしれん」


 与羽は小さな声で言った。こんな言葉、中州の面々には聞かせたくない。


「実力を証明するものが欲しいと――?」


 希理も与羽に合わせて小声で興味深げに尋ねてくる。


「そうかもしれません。少なくとも、今までみたいに乱兄(らんにい)の政務を手伝うのなら、文官位をとった方が乱兄も他の人も安心なんじゃないかと思うんです。官吏はみんな、城主に忠誠を誓わないといけませんから、私も乱兄に従っているって言う意思表示になりますし」


「俺が中州城主の立場なら――」


 そうつぶやいて希理は龍鱗(りゅうりん)の跡がある額を右のこぶしで軽くなでた。


「政治にはかかわらず、静かに好きなように暮らしてほしいという気持ちが半分。喜びが半分だな。きょうだいが自分のために官位をとって働いてくれれば、心強いだろう。まぁ、お前も中州城主もまだ若い。蘭花(らんか)の世はこれからだ。好きなようにやってみろ」


「蘭花」は乱舞(らんぶ)が正式に中州城主として認められた時に制定した元号。そのまま乱舞が治世している時代もさす。


「はい」


 与羽は深くうなずいた。


  * * *


 月見川下りは、予想以上に平穏だった。

 船は比較的流れの穏やかな部分を選んで川を下って行く。船が大きいおかげか、予想したほど揺れは大きくない。

 それでも、夜の暗闇の中、流れの荒い月見川を下るのは危険なので、夕方には川沿いの町で船を泊め、宿をとった。


 停泊したのは、この船の本来の目的地だった中州国銀工町(ぎんくちょう)。中州の西をはしる華金(かきん)山脈から流れる川と月見川の合流地点にある中州でも有数の交易地だ。

 山脈近くで採掘・加工された銀や細工物が山脈から流れる川を使ってこの町まで運ばれ、中州やその近隣国の商人が銀の買い付けを行っている。

 その賑わいは、中州城下町と同程度とも、それをしのぐとも言われている。目覚ましい速度で都市が大きくなっているのが特徴で、数年のうちには城下町を抜いて、中州一の都市になるだろうと言うのが、多くの人々の見解だ。


 船旅だったせいか、中州に帰ってきたという実感はあまりわかなかった。銀工町に来たのははじめてなので、当たり前かもしれない。正確に言えば、以前天駆を訪れた時に、この町の西にある街道を通ったが、町の中をゆっくり見て回る時間はなかった。

 今回もすべてを見尽くすことはできないが、少し時間に余裕があったので、宿の近くだけは観光することができた。


 絡柳(らくりゅう)は準吏の時と大臣位を貰う前に数年ここに住んだことがあるらしく、与羽の好みそうなところを簡単に案内してくれた。

 銀箔をあしらったまんじゅうをおやつに買うとき、お小遣いとして持っていた中州銀銭が使えたことがとてもうれしい。ここは中州だという実感がじわりとわいてきた。


 しかしそれも、中州城下町が見えた時の喜びとは比べ物にならない。

 城下町北部にある月日の丘、そしてその背後に見える黒い瓦屋根の家々――。


 城下町周辺は川の流れが荒いので、月日の丘のさらに北にある桟橋へ船をつける。

 そこにはすでに老年の月日大臣と現在唯一の女性大臣である紫陽(しよう)大臣、その他数名の官吏と城下町の人々が控えていた。

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