十三章一節 - 荷積み
龍頭天駆から南東へ数里進んだところにある船着き場では、南の中州や華金方面へ下る船へ荷物の積み込みが行われている。与羽たちの荷物はさほどないものの、この船を利用するほかの人の荷が多かった。
その「ほかの人」は与羽の隣で嬉しそうにニコニコしている。
「またお会いできるとは奇遇っすね!!」
そう言って、握手を求めようとする彼の手を与羽は払った。
「姫さん冷たいっすよ! もしかして彼氏持ちっすか?」
好奇心旺盛な子犬のようにはしゃぎながら与羽の周りをぐるぐる回っている彼は、華金の商人――四ッ葉屋(よつばや)秋兵衛だ。
「四ッ葉屋殿が手配された船に同乗させていただけることには感謝しておりますが、あまり気安く触れないでください」
与羽は他人行儀とも取れる丁寧さで言った。華金出身ということと、なれなれしさのせいで彼にはどうも苦手意識がある。
しかし、本来、中州北部の銀工町までしか下らない船を割増料金を払って、華金の都――玉枝京行きに延長したのは彼だ。与羽たちを船に乗せ、本来止まる予定のなかった中州城下町へ送ってくれるのも、彼の厚意によるところが大きい。
「申し訳ないっす……」
一応反省してくれたのか、秋兵衛は動きを止めてしゅんと肩を落とした。哀れっぽく垂れた犬の耳としっぽが見えそうだ。
ちらりと与羽の周りで無関心を装いつつも、秋兵衛がおかしなことをしないか見張っている面々を確認して、彼はさらに与羽と距離をとった。
この場にいるのは、与羽、辰海、大斗、絡柳、竜月、雷乱、実砂菜、舞行。そして、見送りに来た天駆領主希理と神官空だ。
他の中州の人々は、船の定員や荷物と馬の移動などのため、一足先に陸路で中州城下町へ向かった。
与羽たちも荷物の積み込みが終わり次第天駆を発つ予定だ。
荷はおもに秋兵衛が買い付けた商品。黒羽、風見、天駆と旅をしながら手配した商品をすべてここへ運ばせ、それを船に積んで一気に華金へ帰ろうという算段らしい。
貴族向けの高価な工芸品が多いらしく、少しでも月見川下りの危険を減らすため、大きめの船に腕のいい船頭を雇っている。
中州城下まで下ってくれ、安全性も比較的高い。中州一行の条件をこれほど見事に満たしてくれる船はこれをおいて他にない。
好奇心が強いらしい秋兵衛に二日間がまんすれば、無事中州城下町へ帰りつけるだろう。
与羽は積み荷の指示に戻った秋兵衛をちらと見て、天駆領主と神官に向き直った。
「昨年に引き続き、お世話になりました」
そう頭を下げた。堅苦しいあいさつは龍頭天駆を出る際にすでにしてあるので、ここでは気楽に言葉を述べる。
「また――、今度は遊びに来い」
希理は与羽の頭をポンと叩いた。彼の笑みは明るく豪快だ。
「はい!」
与羽の顔にも笑みが浮かんだ。
遊びで来られるかどうかはわからないが、天駆にはまた訪れることになるだろう。楽しいことばかりではないだろうが、それでもまた来たいと思える国だ。
「城主にもよろしくな」
「もちろんです」
「中州城下町に戻ったら、どうされるおつもりですか?」
希理の隣に立っている空も口を開く。
「乱兄を手伝って中州の復興のために力を尽くすつもりよ」
丁寧に問う空に、与羽も柔らかな口調で答えた。
「それでは官吏に――?」
本気で城主を手伝うならば、官位は必須かもしれない。




