十二章三節 - 菊花ともみじ
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もみじ狩りのあと、絡柳は中州の先代城主――舞行や、天駆領主――希理、大斗と話し合い、早めに中州城下町へ戻ることを決定した。本来の予定ならば、また祖父と別れなくてはならない与羽のために十分な時間をとるはずだったが、舞行も中州の一行と一緒に城下へ帰ると言ったことでその必要がなくなったのだ。
天駆を発つ前夜、与羽はひとりである場所へ来ていた。天駆の屋敷の一角。漆喰塀の際に小さな石が置いてある。その周りは、枯れ葉が念入りにのけられ、白い菊花が供えてあった。
「幸って言ったよな……」
与羽はそっと石に触れながら、ここに眠る人へ呼びかけた。
先日のもみじ狩りの時に拾ってきたもみじの枝を菊の隣に置いて、手を合わせる。
「あなたでしたか……」
しばらく手を合わせていたが、与羽は背後からの声にゆっくりと振り返った。
「……空」
与羽は空のために墓石の正面を開けながら呼びかけた。
「きれいなもみじですね」
空は与羽のそなえた枝を見て、淡く笑みを浮かべた。長い前髪で顔の半分は隠れてしまっているが、それでもその笑みが苦いものだとわかる。
「幸さんって――」
「あなたと同じ若草の匂いをさせた、可憐な少女でしたよ」
与羽の言葉を遮って言う空。
「十七年前に亡くなりましたけどね」
彼の声は淡々として、感情が感じ取れない。
「希理さんは『妹みたいなもん』って言っとったけど……」
与羽は慎重に言う。
「わたしは妹のように思っていました。幸は違ったように思いますが……。『わたしは顔がいいからもてるのです』」
空は以前言っていたのと同じ言葉を口にした。冗談めかして。
前髪をかき上げてさらした顔は、悲しみや憂いが影になっている。
与羽は、思わずはかないその表情に見入ってしまった。目を離した瞬間に彼が消えてしまいそうで……。
「幸は可憐で美しい少女でしたよ。きっとあなた以上にね」
「残念ながら、私は『無邪気で愛らしい少女』だから。比べる形容詞が違う」
軽い口調で言おうとする空に、与羽もいつも通りの尖った声で返す。
「そうそう、あなたと違い、毒気もない無垢で素直な少女でもありました。本当にとても素敵な少女だったんですけどね。こうなってしまいました」
空はよく磨かれた墓石をそっと撫でた。
「詳しい話を期待されていたら申し訳ありませんが、幸の話はこれだけですよ。これ以上はお話しできません。わたしが覚えていれば十分です」




