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龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
十二章 紅葉
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十二章一節 - 赤の葉林

 中州に戻る前にと、誘われた紅葉狩りの会場は、龍頭天駆(りゅうとうあまがけ)の南。中州や天駆における龍神信仰の聖地にもほど近い山あいだ。

 赤や黄、橙で埋め尽くされた谷間は、とても美しい。

 近くにある聖域を畏敬して、一般の人があまり寄りつかないので、名所の割には人が少なかった。


「きれい……」


 与羽(よう)は辺りを見回した。

 このあたりはもみじが多いらしく、一面赤や朱、その下に色づく一歩手前の黄色が見える。


「谷全体が燃えとるみたい」


 そうため息交じりに言って、わずかに顔をしかめた。自分が形容した「燃えている」と言う言葉に、火を放たれた中州城下町と戦後何度も足を運んだ火葬場を思い出したのだ。

 嵐雨(らんう)の乱のときは、雨が降っていたおかげでさほど燃え広がらなかった。しかし、もし建物が乾いていたら、こんなふうに一面真っ赤に染められてしまったのかもしれない。


 吹き抜ける風に揺らめく木々が、いっそう炎を彷彿させる。


「少し一人で見て回っていい?」


 誰に言うでもなく、与羽はそう断って足を進めた。


「かまわないが……」


 希理(キリ)の言葉を背に、どんどん先へ進んでいく。

 少しでもあたりの赤を見ないようにと足元に視線を落としたが、そこも落葉の赤で染まっていた。上も燃えるような赤の天蓋(てんがい)だ。


「きれいなんだけどな……」


 その美しくもはかない風景に、どうしても嵐雨の乱を重ねてしまう。


 他の面々とはそれなりの距離をとることができただろうところで、与羽は足を止めた。本当は赤いものが見えない場所まで行きたかったが、行けども行けどももみじの林だ。

 与羽はせめて赤を見なくて済むように強く目を閉じた。脳裏に残っているもみじも炎も消し去ろうと念じる。


 硬く閉じた与羽のまぶたに、冷たい手が触れた。


「顔色が悪いよ」


 すぐ後ろから聞こえたのは大斗(だいと)の声だ。


「何で先輩がこちらにいらっしゃるんですか?」


 与羽の声は心なしかとがっていた。

 ひとりであたりを見たいと、単独行動していたはずなのだが……。


「さすがに完全にひとりにはできないからね。一応、護衛のつもりだけど――?」


 大斗は、「文句ある?」とでも言うように語尾を上げて答えた。


「お前が嫌がっても、やるべきことはやらないといけないから」


「必要ありません」


「与羽」


 大斗の声は低く落ち着いている。いらだちも、普段のからかうような響きもない。


「俺は気の強い奴は好きだし、たとえ力は弱くても口答えしてくる奴の勇気や、はったりかましてくる奴の度胸は好ましく思うよ。けどね、今のお前の"それ"ははったりですらない。内心の不安や恐怖、脆さが簡単に透けて見える」


「だからどうしたんですか? 先輩には関係のないことです」


 不機嫌さを隠すことなく言って、与羽は自分のまぶたを覆う大きな手をどかそうとした。


「関係ないことはないさ」


 しかし大斗の手はびくともしない。


「これでもこの旅の間、乱舞(らんぶ)からお前のことを任されてるんでね。黒羽(こくう)風見(かざみ)でヤマは抜けたんだ。いい加減強がりはやめなよ」


「強がりなんて――」


「どう見ても強がりだろう? つらいこと、嫌なことがあるのなら、もっと頼れ。男に言えない悩みなら、実砂菜(みさな)野火竜月(のびりゅうげつ)がいるだろう?」


「……先輩に何がわかるって言うんですか」


 与羽はまぶたを覆う大斗の手をどかそうと、彼の手の甲をひっかいた。


「またそれ?」


 しかし大斗の力はまったく緩まない。


「そりゃあね、お前の全部がわかるとは言わないさ。でも、何も知らないとも思ってないよ。今のお前は全然平気じゃないことを平気だと見せようとして失敗してる。古狐(ふるぎつね)とも距離を置いてるね? 古狐もあえてお前と距離をとろうとしてる。その理由までは察しきれないけど……。けんかでもしたの?」


「そんなんじゃないです」

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