十一章八節 - 華金の薬売り
「中州から黒羽の峠越えの時に同行していた薬売りだね」
辰海は即答した。
「彼がどうかしたの?」
「さっき、下の町で会った時に名乗られたから、確認したかっただけ。他になんか覚えとる?」
「自称だけど年は数えで二十三。中肉中背の青年だったはずだよ。華金出身の商人で――」
「華金……?」
敵国の出身と聞き、与羽の表情が少し険しくなった。
「うん、敵国の出身だからと言うだけで追い出すわけにもいかないし、同行を許可した」
「他には――?」
「あとは……」
「四ッ葉屋(よつばや)はかなりでかい商家だな」
記憶をたどるように言葉を切った辰海に代わってそう言ったのは、華金出身の護衛官――雷乱だ。
「雷乱知っとん?」
「あぁ。玉枝京――華金の王都にいれば、嫌でも耳に入る名前だぜ」
雷乱は過去を思い出しているのか、誰からも目線をそらして答える。
「大通りの一等地にかなり広い店をたくさん持ってるな。確かにもとは薬屋だったらしいが、今じゃ手広くいろんなもんを扱ってたはずだ。傘下にいろいろな職人や船頭、商家が組み込まれてるからな。四ッ葉屋派の商家だけでもごまんとある。だが、そん中でも『四ッ葉屋』を名乗れるのは、ごく一部――本家とそれにかなり近い血筋のやつらだけだと思うぜ。通行手形を偽装してるんじゃなけりゃ、その秋兵衛とか言うやつは、相当いいところのぼんぼんだろうよ」
「そうは見えんかったけど……」
口調も態度も雑で、礼儀がなっていない印象を受けた。もしかしたら、わざとそうふるまっているのかもしれないが……。
「手形は漏日大臣や山吹武官たちが念入りに調べていたから、偽装の可能性は低いと思う」
辰海がそう補足した。
与羽は左ほほの龍鱗の跡をなぞりながら考え込む。
偶然見かけたから声をかけただけの可能性も高いが、中州の姫に接触してきた華金の大商家の人間――。
「なんか、嫌な感じするよなぁ」
与羽はそうひとりごちた。
「『四ッ葉屋』の商人はそこらへんにうじゃうじゃいるから、あんま気にすんな。あいつら、珍しい商品を手に入れるためなら長い船旅が必要な外つ国にも平気で乗り込むからな」
雷乱が大きな手を与羽の頭に乗せて、そっと撫でた。
「……うん」
「それはそうと、明日かあさって時間あるか? 天駆領主がみんなで紅葉見に行こうってよ」
話を変えてくれたのは、これ以上与羽を不安がらせないための思いやりだろう。
「大丈夫。空けとく」
与羽は息をつきながらそう答えた。




