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龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
十一章 四ッ葉屋
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十一章四節 - 龍頭天駆

 与羽(よう)の周りにはすでに中州の面々が集まり、かつて中州を治めていた老主人に口々にあいさつをしていた。舞行(まいゆき)はその一つ一つに笑みを浮かべて答えている。

 そのうち天駆(あまがけ)領主である希理(キリ)の周りにも人が集まり、一通りのあいさつを終えたあと天駆の都――龍頭(りゅうとう)天駆へと再出発した。


 中州同様、龍神の末裔が統べる国――天駆では与羽の姿もさほど奇異の目では見られない。

 もちろん珍しいものではあるが、誰もが神聖なものとして扱ってくれる。与羽は笠をとって、結っていない髪を思う存分秋風にさらしていた。


 時折きんもくせいの甘い香りと、刈りたての稲のかすかに香ばしい甘みを帯びた匂いが漂ってくる。刈穂の匂いは好きだ。薫町の様々な香が混ざった薫風よりも自然な匂いは、安心感を与えてくれた。


 もちろん近くに祖父がいるおかげもある。

 彼は、一人で馬を歩ませている与羽を見てひどく感動しているようだ。今年のはじめに舞行と別れたときの与羽はまだうまく馬に乗れなかった。練習したかいがあったと、与羽の顔には得意げな笑みが浮かんでいる。


 辰海と距離を置いた生活も徐々にだが馴れつつある。

 天駆に来てからいいことづくめで、龍頭天駆までの二日間はとても楽しく過ごすことができた。


 天駆国の都――龍頭天駆についた時点で、嵐雨の乱に協力してくれた人々を無事祖国へ送り届け、協力のお礼を述べると言う旅の目的は達成だ。

 城主代理としての仕事をすべて終え、すぐにでも中州に帰ることができたが、与羽はもう少し龍頭天駆に滞在することに決めた。

 前回ここに来たときは、内乱のために町に入ることができず、聖地にひと月こもって正月の舞を奉納したあとは、龍頭天駆を離れて西南にある湯治場へ行ってしまったのだ。この機会にちゃんと龍頭天駆を見ておきたかったし、希理の家族や天駆の官吏たちとも会いたかった。


 と言っても、天駆の官吏に会うのは失敗だったが……。

 中州国の姫を官吏たちの一部は昇進の足がかりにしようとしたのだ。

 お小遣いをあげるから天駆領主や中州城主によろしく、とわいろまがいの金銭を渡されそうになったり、娘や息子と友達になってくれと言われたりと気が抜けない。天駆の人々と親しくなる分にはこちらも歓迎だが、その背後に与羽や中州を利用しようとする下心がある場合はやはり困ってしまう。


 そんな様子を見た大斗(だいと)が、「そんなに偉い人と仲良くなりたいなら、俺のところにおいでよ」と竹刀片手に彼らの根性を叩き直しにかかっている。

 痛い目に合っても、武官筆頭家長子に覚えてもらえるならと、彼に挑む武官はきりがない。


 その相手をする大斗は少し楽しそうだ。黒羽、風見となれない異国に滞在して、彼もうっぷんがたまっていたのかもしれない。ちなみに、かつて天駆を訪れた時、大斗は自分の官位を偽っていたが、それはすでに訂正してある。


 絡柳や辰海の周りにも官吏やその子どもが集まったが、絡柳は持ち前の堅苦しい口調でそのすべてを切り捨て、辰海も全く興味がないことを示した。

 秋が深まり冷たい風が吹きはじめた中であるにもかかわらず、薄着でしなだれかかってこようとする娘たちの神経は疑ってしまう。

 辰海に色仕掛けは効かない。与羽と距離を置く日々が続いていたが、彼女への想いは褪せていない。たとえ結ばれなかったとしても、彼女だけを想い続けるつもりだ。

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