十一章二節 - 分岐路
すでに風見の人々の見送りの中薫町をぬけ、街道の最初の分岐点まで来た。ここを東に行けば中州へ向かう峠道、北へ行けば風見の都市をいくつか抜けたあと天駆へ。
ここで中州の一行は二手に分かれる。
冬に行う予定の官吏登用試験のために、先に中州へ帰る漏日大臣とその護衛や人足をかねた武官や武官準吏が半数。
「ラメも中州に戻るんよね?」
与羽はここまでついてきてくれた文官の親友に確認した。
「うん。水月大臣に頼まれた仕事をこなすには、中州城下に戻った方が色々と都合がいいから、漏日大臣や武官の人たちが中州に戻るんなら一緒に帰ろうかなって」
「結構少なくなるなぁ」
与羽は二つに分かれた人々の顔を確認していった。
与羽とともに天駆へ向かうのは、官吏の中でも官位が高い者が多い。人数の少なさをその質で補おうとしているようだ。
「与羽、そろそろいいか?」
絡柳がそう出発を促す。
「もう少し……」
与羽はかぶっていた笠をとって絡柳に預けると、漏日大臣をはじめ中州へ戻る人々に短く声をかけて回った。
みながそれに笑顔で答えてくれる。
「もういいか?」
あいさつを終えて戻って来た与羽に、絡柳が再度問う。
「はい」
今度は深くうなずいた。
黒く染めた髪が、秋晴れの陽光に濃い藍に光って見える。目の色は鮮やかな青紫だ。
絡柳はそれを隠すように、与羽から預かっていた笠をかぶせた。
中州へ帰る一行はすでに漏日大臣の指示のもと馬を進めはじめている。
「こちらもすぐに出るぞ」
漏日大臣が抜け、最も官位の高い文官になった絡柳が、馬に乗る与羽に手を貸しながらそう指示を出す。
その一声で、休憩していた人々も荷物や馬を整え隊列を組んだ。
先頭に武官十一位山吹信仁と、十二位風見秋夜。その後ろに数名の武官が並び、中央やや前方よりに、大斗、絡柳、辰海、千里、雷乱、竜月、実砂菜に囲まれた与羽。
さらにその後ろにも、荷を負った馬を連れた人足や武官がつづく。
最初中州を出た時は他国の兵もあわせて四百以上いた人々が、今は二十数名にまで減っていた。
やや速足で馬を歩ませる彼らに会話はほとんどない。
もっと和やかに旅がしたい。この薫町から天駆へ通じる街道には、どんな町があるのだろう。
「辰海」
与羽の好奇心は、無意識に博識な幼馴染の名前を呼んでいた。
「なに?」
辰海は与羽を見て、小さく首を傾げた。
そこでやっと与羽は辰海の名前を口にしていたことに気付いた。その瞬間、辰海に頼らないと決めたことを思い出す。
「ごめん、やっぱりなんでもない」
与羽は慌ててそう首を横に振った。
危ない。彼には頼らず生きるのだ。自分には少しでも困ったり、疑問があったりすると、辰海を呼んでしまう癖があるらしい。
彼との会話は極力避けなくては。そうしないと、すぐにわがままを言ってしまう。
「なら、いいけど……」
そうつぶやいて、辰海が視線を進行方向に戻す。
それを確認して、与羽も前方を見た。街道から見える田んぼはちょうど稲刈りの時期だ。
黄金色の稲穂の海と、その間に漂うように板屋根の粗末な農家が見える。緩やかにうねる丘陵先には、そこそこ大きな町があるのか、屋根瓦が陽光を反射しているらしき煌きがあった。
与羽は気持ちが急いていた。早く天駆に行きたい。天駆には祖父がいる。
黒羽でも風見でも色々な経験をした。楽しいことも多かったが、悲しい気持ちにもなったし、怖い思いもした。
それを祖父に会うことで少しでも癒したい。
「与羽、姿勢が崩れているぞ」
急ぐあまり前傾になって、絡柳にそう注意されることもたびたびだ。
秋が深まりはじめ、辺りには村人総出で稲刈りをする老若男女や、様々な地域からの珍しい物がたくさん集まる町もあったが、それに対する興味よりも、祖父に会いたい欲の方が勝った。おもしろそうだと思うものを見つけても、「これは何?」と辰海に聞けないのだ。非常につまらない。
八本の街道が交差する風見有数の貿易都市、風見の中でも最先端の工芸技術を持つ職人が集う金属と宝石細工の町、砂糖大根の一大生産地とそこにほど近い菓子職人や飴細工師の町――。
旅の途中では、街道沿いの様々な特色ある町に立ち寄った。
その中で、たくさん感動した与羽だったが、それを辰海と共有できないのが寂しい。辰海との距離を意識するたびに、早く祖父に会いたくなった。




